談春七夜「緋」

すんごい雨風の中、池袋芸術劇場でよかった〜!と思いつつ、でかけた。なんたって、駅から地下道でそのままたどり着けるもの。談春師も、さすがにお客の出足が気になっていたようで、前説で「ほんとうに、開演時間に間に合ってくださって、ありがとうございます」と言ってたな(笑)。これも、”伝説”のひとつになることだろう。

  • 三三「大工調べ」大家と喧嘩するところまで
  • 談春「おしっくら」

仲入り

プログラムを読むと、どうやら「緋」は女と男のネタらしい。さて、なんだろう? ちょっと無理があるけど「紺屋高尾」だったらいいなぁなとど思いながら、開演を待つ。「今日は、2,700円分やるように」と指名された三三師匠。棟梁が与太郎の家にやって来たってことは・・・「大工調べ」!? 談春師の棟梁の啖呵のキレをよーく知っているはずのお客の前で、勇気ある選択だなぁと思った。
続いて登場した談春師。旅の噺を申し上げますといって、馬子唄を唄い出す。ってことは「おしっくら」だ、ワーイ(とはいえ、唄った談春師の「おしっくら」、わたしは初めてだけど)! このネタ、好きなんだと心の中でガッツポーズ。今宵も、宿屋のばあさんがいきなりカマしてくれて、”じょうはち”の姉さんも、例の「お風呂にしますか、ごはんにしますか?」を。何度聞いても、この件り、好きだ。清ちゃんがまんまとしてやられ、翌朝、泣きっ面に蜂状態になるのも、楽しい。こういう時の表情が、いたずらっ子っぽくて、いいなぁ・・・。
仲入りで、木村万里さんと、ちょっと立ち話。毎日貼り出されるあの演目、誰が書いてるんでしょうね???と。完全な寄席文字とは違うと思われるのだけれど、明らかに寄せ文字を意識して書いているのはわかる・・・。
1ベルが入ってから、出囃子が鳴るまでに、ちょっと長めの間が。「まだ、ネタを決めかねている」と前説で言っていたけど、ほんとうにまだ迷ってたり・・・しないよね。「中の舞」に乗って登場すると、花柳界の花代の話をフっている。「え、もしかして。もしかする?」と、その時に頭をかすめたネタは「たちきり」。ずーっと前から談春師で聞いてみたいなぁと思っていたネタで、いつの間にか頭の中で「聞いたことあるネタ」に勝手にすり替わっていたぐらいだ(汗)。でも、番頭さんが若旦那に「100日間の蔵暮らしをお願いします」と言うまで、「ほんとうにたちきり???」と思っていたのだけれど。
100日が過ぎて、番頭さんが若旦那を迎えに来て、小糸からの手紙のことを告白するあたりからが、とても丁寧に演じられて、それが、若旦那が小糸の家に確かめに行き、小糸のおかあさんと話すところへの伏線として、非常に効いているのが、後になってわかる。小糸の心変わりが信じられず、どうしても両親に会う前に確かめに行きたいという若旦那。なぜなら「芸者に惚れたんじゃないんだよ。好きになった女が芸者だったんだ」というセリフで、まずジーンと。そして、小糸の家に行って、おかあさんとの会話を聞いているうちに、どんどんウルウル度が上がって、悔しいけど、泣かされちゃった・・・。その時、談春師の目にも光るものがあったように見えたのは、気のせい??? 
「わたしはね、あなたが心変わりするような方じゃないっていうのは、わかっていたんですよ。でも、あの子は信じることができなかったんです。でもね。あの子は今は、幸せなんですよ。あなた以外の人を好きにならないように、死んだんですから」というお母さんの心情を素直に受け入れられたのは、やはり、そこに至るまでを丁寧に描いていたからだろうな・・・。
お店のこと第一のはずの番頭さんが「途中から、この手紙が途切れないで欲しい。100日の間、毎日手紙が届いたら、たとえご両親様がなんとおっしゃろうと、お二人を添わせて差し上げたいと思いました」って・・・。小糸の思いを知った、朋輩衆が毎日集まって、若旦那に手紙を書いてくれたって・・・。そういう積み重ねがあったからこそ、悲しいけれど仕方ない、運命なんだって納得できる「たちきり」になっていたんじゃないだろうか。三味線の「雪」入りで、しみじみと。
番頭さんも、若旦那も、小糸も、小糸のお母さんも、誰一人、イヤな人はいなくて、これは悲し過ぎるけど、”運命”なんだ、っていう風に聞くことができて、「あー、やっぱり談春師で聞きたいと思ったのは、間違いじゃなかったな」と(自画自賛だね、こりゃ)。