『京都の平熱』

京都市バス206番という、京都の街をぐるっと一周する路線バスに乗って、鷲田さんはご自分の生活の記憶をたどって行きます。その記録がこの一冊。観光地として有名な場所を目的地とするのではない、「平熱の京都」をめぐるバスなのだと鷲田さんは言います。この中で登場する、食べたり飲んだりするお店も、京都の人がごくごく日常の中で利用するお店ばかり。雑誌の京都特集では見えてこない京都の、いわば普段の顔。
鷲田さんは、最後に

京都人はじぶんの「普通」の地べたの生活のなかに入ってきた地以外のひとには、そういう地のいいところへ気前よく連れてゆく。わたしは、京都を知るにはこの地のひとたちと縁をつなぐのがいちばんだと思う。京都という街には入り口が多く、いちおう千二百年も都市でありつづけてきたのだから、襞や影や奥も錯綜していて、五十年この街で生活してきてもまだまだ知らない場所だらけである。だから一週間見て回っても、この街の秘密はぜったいに分からないだろうし、また堪能するまでは遊べはしないだろう。個々の点を綾とりのようにいろんなパターンでつなぎ換えるネットワーク力が要る。だから京都という街を知るには、味わうには、京都に友人を、あるいは親戚を、ひとり作ることである。これに限る。

と書いていらっしゃる。
そうした背景には、長い間、外からヅカヅカと入って来て勝手気ままに京都を操った時の為政者たちに翻弄されて来た、「地」の人びとが、経験から培った生活の知恵があるのだそうだ。
幸い、京都には友人がいるので、今度行く時には、彼女にとっかかりを教えていただくことにしよう。

京都の平熱  哲学者の都市案内

京都の平熱 哲学者の都市案内

そうそう。鳩居堂の本店は京都、というのは知っていたが、羊羹の虎屋の本店が未だに京都にあるとうのは、この本を読むまで知知らなかった・・・。鷲田さんは「東京の人は知らない人が多いからから困る。いや、うれしい。東京から来客を迎えるたびに、『とらや』の高価な羊羹が戴けるので」と書いていらっしゃる。こういうところも、京都人らしいのかも?とこの本を読んでいて思ったのだけれど、いかがなものだろう???(笑)
それと、日本のマネキン第一号が、京都で作られて以来、今でも京都の独占物になっていて、その背景には、精密機械の島津製作所の技術があったからだ、というのにも、驚いた。ワコールも、しかり。京セラや村田製作所オムロン、さらに任天堂も。京都ってやっぱり面白そうだ・・・。