『落語家はなぜ噺を忘れないのか』

花緑さんが、どのように噺を覚え、自分のモノにしていくか、という舞台裏を種明かしした本。一部で「タイトルと内容が全然違う!」という声も上がっているようだけれど、わたしはそうは思わなかったけどなぁ・・・。みんなもっとストレートな「暗記術」的な内容を期待したのかなぁ? 「どうやって覚えるか」ということより、一度覚えた噺を「どうやって忘れないか」、「どう、自分のモノにしていくか」という事が詳しく書かれているから、「暗記法」を期待した人には、違うじゃん!って思われるのかもね・・・。だけど、落語を聞いたことがある人、古典芸能をお稽古している人にとっては「なるほど!」って思うところがいろいろあると思うよ。
素人のお稽古事と同列にすることのは失礼だと思うけど、「書いて覚える」「噺を分解する」っていうのは、囃子の手組を覚えるのと共通してるなぁ〜と思った。
歌舞伎囃子の場合、楽譜に相当するようなモノは市販されていないので、師匠から附けをいただくか、お稽古の後、自分で附けを書き起こすかしなければならない。うちの師匠は、稽古を録音させてくださるので、自分でそれを聞きながら書き起こす(時々、その場で手組を書いてくださることもあるけれど、その日の稽古の一部分だけ)ことをする。書くことで覚える部分って、かなりあるし、書いたものを見て「ここは○○(よく出てくる手には名前がある)」というメモを書き込んで行く。その手の名前をつなげて書いておくのも、覚えるのに有効だし、その時に口三味線や唄の詞章を書いておくと、実際に楽器を打つ時のキッカケになったりするので、書き起こす+分解するっていうのは、セットになっている。
師匠も「覚えるのには、書くというのは有効です」とおっしゃってたしね。
花緑さんに稽古をつけてくださった師匠や先輩、お仲間の人たちの、落語に対する姿勢みたいなのも、うかがうことができて、なかなか面白かった。