「読みたい」と「持ちたい」の違い

高橋輝次『古本漁りの魅惑』(東京書籍)を、だいたい読了。
なぜ、だいたいかというと、今のところ馴染みもなく、あまり興味もない、いにしえの海外の古書店についてのくだりなど、飛ばしたため。

古書好きの著名人が、古書・古書店・店主などについて書いたものを、丹念に集めた本。
上林暁
「古本漁り」の文章の冒頭で
「女の人は一般に新刊書が好きらしい。女で古本漁りをするのは、特別の人にちがいない。」
と、述べている。
昭和34年刊『文と本と旅と』という単行本に収められた文章なので、昭和30年前後は、おそらくそうだったのであろう。
この高橋さんの本に集められた文章も、46編中、女性筆者のものはわずかに3編だ。

しかし、最近の古書業界?には、それと知られた女性店主が何人もいらっしゃるし、北村薫さんの円紫師匠シリーズ(と勝手に呼ばせていただく)の”わたし”は、女子大生であるから、近年は、女性でも古本好きは、少なくないと言えるだろう。

その後、手に取ったのが、紀田順一郎『古本探偵登場』(文春文庫)。
書痴やビブリオマニアという言葉は知っていた。ところがどんな分野にも、上には上があるようで、”ビブリアラトリ(狂信的書籍崇拝者)”という、さらにその上を行くクラスがあるとは。

この本には「殺意の収集」と「書鬼」の2編が収められているが、どちらにも執念で本を集める人々が登場している。「書鬼」に登場する谷口彰人のそれは、まさに”狂信的”だ。
解説の瀬戸川猛資さんが「いずれも現実にモデルが存在すると思われる」と書いておられる以上、瀬戸川さんにも、お心当たりがあったのだろうか?

推理小説としては、それほどのめり込める作品ではなかった。主人公である古本屋の店主・須藤についての基礎情報が少ないし、事件解決の鍵となる部分が、わたしにはいささか飛躍しているように思えるところがあるからだ。
しかし、古書をめぐる様々な人間模様や、彼らの習性などについては、興味深く読んだ。

これほど、執念ともいえる思いを持つほどに、古本を所有することにのめり込む人々がいるとは、驚きであると同時に、ちょっと恐ろしくもある。
高橋さんの本に登場する人々は、学者か文筆をなりわいとする人々なので、「古本漁り」といいながら、微笑ましい、あるいは涙ぐましい、といった読後感だった。読みたい本を探しているうちが、花ということか。