銀座の鮨屋の「千夜一夜物語」(前)

新津武昭さんが語り、伊達宮豊さんがまとめた<A HREF=http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3be9eb04314cb0105a09?aid=p-mittei16105&bibid=02085394&volno=0000>『ひかない魚』</A>(求龍堂)を読んだ。銀座の「きよ田」という伝説の鮨屋の主の聞き書き
「きよ田」は、2000年12月28日に閉店した。その店主が、新津武昭さん。白洲次郎・正子夫妻をはじめ、小林秀雄今日出海安岡章太郎井上靖吉行淳之介といった文学者から、奥村土牛中川一政梅原龍三郎といった画家、さらには青山二郎等々といった本物の大人が集う、鮨屋であり「サロン」。
新津さんと、この本の中で語られる人たちとの間には、たんなる”店の主と客”ということでは割り切れない、深いものを感じる。お互いの”絶対的な信頼関係”があったのではないか。

例えば。誰もその酒を止めることができなかった小林秀雄に、「これでおしまい」と唯一言えたのが新津さんであり、白洲次郎が「小林さんは誰の言うことも聞かないのに、おまえの言うことだけは不思議と聞くんだよな」と驚いていたという。新津さんが、なぜそんな風な信頼関係を築くことができたかというと、ひとつには、客をその肩書きで分け隔てをすることがなかったということがある。それでいて、行儀の悪い客は、相手が何者であろうとも店に入れなかった。よしんば店に入れたとしても「コノヤロウと思ったら(魚を)尻尾のほうから切っていけばいいんです」。