五木寛之とヘンリー・ミラーの対話(2)

三十七歳の日記では、来日したヘンリー・ミラーとの対話が、印象的だ。
当時、新潮社から個人全集を出版したヘンリー・ミラーが「自分の本が、欧米ではこれだけ売れているのに、なぜ日本ではこれしか売れないのか? 新潮社のプロモーションが悪いのか? 日本のジャーナリストは私が日本では非常に有名であり、かつ尊敬されている作家であるというが、それは本当なのだろうか?」と、次々に五木さんに疑問をぶつけて行く。五木さんは「私にはわかっているのだが、その辺をあなたにうまく説明する能力がない」とミラー氏に答える。
さらに「私の本は日本においてベストセラーズになる可能性はないと思うか?」という問いに五木氏は
<b>「日本では、ベストセラーズは尊敬されない。尊敬されるのはロングセラーズである。あなたは十年後に私に文句を言うべきである。日本ではことほどさように読者の水準は高く、出版社も見識があるのだ。ベストセラーズを大騒ぎする欧米の読書界は反省すべきではないかと思う。新潮社もあなたの本をベストセラーにすることなくロングセラーにしたいと望んでいるのだろう。立派ではないか」</b>
と答えた。それを聞いてミラー氏も「私は満足である。君はやはりわかっているのである」と答えたという。

果たして、当時の日本の読書界が五木氏がミラー氏に語ったような水準にあったのかどうか、わたしには判断がつかない。もし、そうであったとして、現在もその伝統が守られているか?と考えると、ほぼNoである。
本を作り世に送りだす人、本を売る人、本を読む人、それぞれがもう一度、考え直すべき時がきていると思うのだが・・・。