遅まきながら

台風の進路がだいぶそれたため、それほどひどい雨風はないまま、夜に。
これで、秋めいてくれれば、いいなと思う。

村上春樹さんの『風の歌を聴け』(講談社文庫)読了。

村上さんとは、あまりご縁がなくて、『ノルウェイの森』と『アンダーグラウンド』くらいしか、読んだ記憶がない。
どちらも、単行本で読んでいて、嫌いではなかったのだけれど、なぜか続けて他の作品を読もうということにならなかった。
なので、今頃になってデビュー作である『風の歌を聴け』を読んだというわけだ。

これを読もうと思ったのは、坪内さんの『後ろ向きに前へ進む』を読んだからだ。それ以前に、坪内さんが20代に影響を受けた100冊の中に入っていたので、買ってはあったのだが、なかなか手を付ける機会がなくて、そのまま本棚の坪内コーナーに収まっていた。
しかし、「幻の1979年論」をより理解するためには、これを読んでみようと思い立ったというわけだ。

1979年当時、わたし自身はどんな本を読んでいたのか、当時の読書ノートなどはもはやどこかへ行ってしまったので、はっきりとしない。記憶をたどると、池波正太郎先生の『真田太平記』をとっかかりに『鬼平犯科帳』あたりを読み始めたのと、恩師の影響で都筑道夫さんの作品を読んでいたような気がする。
あとは、歌舞伎に通っていたので、戸板康二先生の評論や小説をはじめとする、歌舞伎関連の文献も、趣味として読んでいたはずだ。

当時はまだ、芥川賞作品も「文藝春秋」を父が毎月買っていたので、なんとなく目を通していはずだ。池田満寿夫さんの『エーゲ海に捧ぐ』あたりまでは、なんとなくついて行っていた。村上龍さんの『限り無く透明に近いブルー』で、すっかり挫折した。
当時のわたしは、『限り無く透明に近いブルー』という作品を、生理的に受け付けなかったのだ。
そんなこともあって、あの世代の作家であり、名字が同じ村上であった村上春樹さんという作家に対して、あまり興味が持てなかったのかもしれない。

風の歌を聴け』を当時読んでいたら、村上春樹さんという作家にもっと早く注目していたかもしれないと、思う。
遅まきながら、これから村上さんの作品を読んで行こう、そう思わせてくれる作品だった。