贅沢な短編集(2)

『我らが隣人の犯罪』は、殺人事件が起きるのは「祝・殺人」のみ。それも、直接の登場人物が手を下すのではなく、アームチェアー・ディテクティブよろしく、ほとんど喫茶店で主人公が刑事相手に披露する推理のシーンのみで事件が解決される。それ以外の「我らが隣人の犯罪」「この子誰の子」「サボテンの花」「気分は自殺志願(スーサイド)」は、血が流れることはない。いずれも、”犯罪”の結末は後味すっきり、あるいはほのぼのとしたものだ。
特に、「この子誰の子」では、ストーリーそのものは何となく予想がつくところに落ち着くのだが、主人公の最後の一言がとてもすばらしい。「サボテンの花」は、最後の数行に意外な展開が用意されていて「やられた!」という結末が待っている。

このことは、北村薫さんの解説でも触れられている。宮部さんの作品に北村さんの解説というのは、それだけで大ご馳走だ。さらに北村さんほどの書き手にこんな風に言わせる宮部さんは、やはりすごい!と思う。
強いて、一番のお気に入りを選べと言われると、「この子誰の子」だろうか。でも「サボテンの花」も捨てがたい。
一作一作に異なる工夫が凝らされており、それが際立っている。その上、5つの作品に共通する経線がきっちりと感じられる、粒ぞろいの贅沢な短編集だ。そして、宮部さんのただならぬ実力を堪能できる短編集である。