当代一の忠信役者

朝と夜は雨、昼間は曇っていて、ちょっと寒い。

歌舞伎座夜の部を見物。
歌舞伎の友・Kさんは急な仕事で遅れるという。切符をとってもらっておきながら、わたしだけ最初から見られるのは申し訳ない気分。

夜の部は「義経千本桜」通しの、下市村椎の木の場から川連法眼館まで。
全体を通して、配役もいいし、時代ものあり世話物ありのバラエティーに富んだ構成で、楽しめる。
「椎の木の場」では、なんといっても團十郎さんの”いがみの権太”がいい。通りかかった旅の者を装って、小金吾を騙して大金を奪うが、自分の息子にはめっぽう弱い、大悪党にはなりきれない権太という人物像がくっきりと浮き彫りになる。
セリフも「勧進帳」や「助六」の時のような”力み”がなくて、聞きやすい。
続く、小金吾討ち死にの場は、歌舞伎の立ち回りという様式美が見せ場。
信二郎さんの白塗り・前髪立ちの姿が、スッキリとして美しい。
立ち回りも緩急がしっかりと意識されていて、蜘蛛の巣のように組まれた捕り縄の上に決まった姿は、絵のようだ。

休憩をはさんで、すし屋の場。ちょっと単調かな?という気もする。
魁春さんのお里と時蔵さんの弥助実は惟盛は、お人形のようなお似合いの新婚さんぶりが、ういういしい。
梶原平三の富十郎さんは、ご馳走。相変わらずキッパリとした口跡とスッキリした立ち姿は、年齢を感じさせない。

さらに休憩をはさんだ、川連法眼館の場。お待ちかねの菊五郎さんの二役は、今、忠信役者はこの人しかいないのでは?と感じられる。
忠信本人のキッパリとした品のいい二枚目と、狐忠信の狐ぶりとの演じ分けは、お見事。
舞台の仕掛けと、菊五郎さんの肉体、さらに演技が、三位一体となっている。
芝雀さんの静は、姿や仕草はいいのだが、セリフがちょっと粘る感じがする。
松助さんは、前の二幕で左団次さんの代役で演じた弥左衛門のようなフケ役は、まだお気の毒な感じがする。この幕の駿河次郎や「助六」の通人のような役が見たい。

義経千本桜」は、通しで見るのはもちろん、初めて見る場も多かったのだが、歌舞伎の様々な魅力が盛り込まれていて、見応えのある狂言だった。そして、菊五郎さんの魅力が十分堪能させていただいた。