繰り返し読みたい”名セリフ”

歌舞伎の魅力はたくさんある。
その一つが、磨き抜かれた言葉であるということを、改めて教えて下さったのが、戸板康二先生の<b>『すばらしいセリフ』</b>(ちくま文庫)だ。
もちろん、小説や随筆、詩歌といった読むことばもそうだが、人間が声に出して語る言葉の美しさというのは、またそれらとは違った美しさがある。

もちろん、“名セリフ”と呼ばれるものには、文学として読んでも美しい言葉がたくさんある。しかし、歌舞伎が演劇である以上、名優が舞台の上で語ってはじめて、“名セリフ”となる言葉もある。いや、それこそが”名セリフ”なのだ。
たとえ短い、たった一言のセリフであっても、その一言には、作者や役者の様々な思いや工夫が積み重ねられた結果、生まれたセリフだということを知ると、ますます歌舞伎を楽しめるようになる。

歌舞伎という現代とは異なる非日常の世界を描くお芝居を見るには、勉強も必要だ。誰がどんな場面でどんな所作をしながら”名セリフ”を言うのか。芸談を読んだり、見巧者が書いた解説を読んだり、過去の劇評を読んだりすることは、勉強とはいえ、楽しい。

現に、この『すばらしいセリフ』を読みながら、過去に見た舞台を思い出したり、これから見るであろう芝居を想像するのは、とても楽しかった。
これからも、時々この本を取り出しては、読み返す本になることだろう。