戸板先生と利倉さんに感謝(2)

解説を担当された利倉幸一さんが書かれた、次のような言葉がこの本のすべてを表している。
<b>六代目には「伝説」も少なくないし、通読しているとどこかに「矛盾」があったりする。その日、その日によって芸の照れ加減がちがったり、あれだけの堂々の演技を見せる反面に、大見えが切れなかったということなど、俳優の性格の舞台への波及のおもしろさは、どうしてもきまった物尺でははかれないもの。―こういう、謂わば標的の定め難い面のある六代目を、これだけ解明したのは、矢張り戸板君の演劇評論家としてのすぐれた稟質に、加えて小説家的な観察力のあることを挙げたい。
そして亦、戸板君の都会人的な神経の動きとして、それは「劇評」にも見られることであるが、大正へのいたわりである。いやな点には触れないというのではなく、それを優しい眼で見るということである。育ちのよさのもたらすものと言ってもよい。</b>

著者である戸板康二先生にはもちろんだが、このすぐれた”菊五郎論”を、後世に伝えるきっかけを作って下さった、利倉幸一さんにもお礼を申し上げたい。