噺家の”おかみさん”もまた才能がいる稼業(1)

普通の人が、”おかみさん”という呼び名で、すぐに思い浮かべるのは、相撲部屋か旅館、料理屋あたりの奥さんや女主人だろう。
なぜかわからないが、子供の頃に「将来、何になりたい?」と聞かれて「おでん屋のおかみさん!」と答えたわたしだが、今、おかみさんという響きから連想するのも、似たようなものだ。ただ、そこに”噺家のおかみさん”というのも加わるけれど。

近年、ちょっと話題になった「梨園の妻」というのは、”おかみさん”というよりは”奥様”だが、噺家さんの奥さんはやっぱり”おかみさん”と呼ぶのにふさわしい人であって欲しいなどと、勝手に思ってしまう。
それは、談春さんが修行時代のことを話すときに、談志師匠の奥様のことを「おかみさん」と呼ぶからだし、志ん生師匠や小さん師匠の奥様も、親しみを込めてその思い出が語られる時に”おかみさん”と呼ばれているからだろう。
ただ、これまで当の”おかみさん”が書いた本というのは、あまり見当たらない。やはり現代的になったと言われてもまだまだ上下関係がキッチリしている噺家さんの世界では、”おかみさん”には内助の功が求められているからではないだろうか?

そんな噺家のおかみさんの日常は、どんなものなのか?という興味から、当代の人気噺家といえば必ず名前が挙がる柳家小三治さんの”おかみさん”、郡山和世さんのエッセイ集『噺家カミサン繁盛記』(講談社文庫)を読んだ。