今宵は勘九郎

勘九郎さんの”勘九郎”としては最後の舞台ということで、大盛況の歌舞伎座へ。といっても、ヤフオクでの落札に失敗し、「桃太郎」だけ、ちょっと訳ありで拝見させていただく。
最初に、初舞台のときの映像が映し出されるところ、犬が「うちの90になる爺さんに見せてやりたい」を連呼するところ、筋書きに全く目を通さないまま拝見したので、「なるほど、その前フリだったわけね」と次々に種が明かされていくようで、玉手箱を開けたような楽しさ。
又五郎さんが登場した時は、もう大感激(犬の爺さんとは、又五郎さんのことだったのです)。もともと小柄な方だったけれど、ますます小さくなられてしまって、それでも存在感はしっかりある。そして、桃太郎に幟を渡すところで、ちょっとウルウルしてしまった。それと、小山三さんが雉の役で、鬼退治に出かける時はなんと、赤姫のような衣装で登場! 勘九郎さんの小山三さんへの気持が伝わって来たような気がする。
福助扇雀三津五郎弥十郎といった、お馴染みメンバーも大活躍で、勘九郎さんをもり立てる。弥十郎さんの犬が、時々「マツケンサンバ」ばりの腰の振りを披露したり、七之助くんがひたすら変な振りで踊りまくったり、もう笑いどころが一杯。
途中、女房が鬼だったことに気付かなかった自分の堕落を反省して、踊り続けるシーンでは、勘九郎さんの当たり役(舞踊)が次々にメドレーで。昔からのファンの皆様には懐かしく、最近、勘九郎さんのお芝居を見るようになったファンには「これが噂の!」という御馳走、御馳走。通から初心者まで、誰もが楽しめる演目に仕上がっているところが、さすが! そして、桃太郎の性根がかわっていくところを、どんどん痩せていきつつ衣装もちょっとずつ変化するという手法で、わかりやすく表現していたのだった。「鏡獅子」の前シテで一旦、勘九郎さんが引っ込んだので「もしや、七之助くんが子獅子で登場したりは、しないよね・・・」なんて思ったら、「連獅子」となり赤の毛を付けて登場し、なんと、三味線二杯の間に73回(だったと思うんですけど、その場ですぐにメモを取っていないので、違うかもしれないですが、とにかくたくさん)も毛を振ってしまったので、びっくり。最後の方の毛の振り方は「千秋楽だからね」という感じだったけど、それも含めて、常にチャレンジを続ける勘九郎さんらしいなぁと思った。
鬼退治に出かけるために勘九郎さんが花道を引っ込んでの幕切れ。すると次々に観客が立ち上がり、割れんばかりの拍手が巻き起こり、カーテンコールとなる。全キャストが扮装のまま、舞台で勘九郎さんを迎える。くす玉が用意されていて、その紐を引っ張ると「勘九郎親方ありがとう」という垂れ幕。勘九郎さんは、挨拶をしようとするのだけれど、感極まったか、言葉少なながら、共演者、スタッフ、家族、そしてご贔屓への感謝の気持は、ひしひしと伝わって来る。一旦、定式幕が閉まったけれど、それでも拍手は鳴り止まず、二度目のカーテンコール。渡辺えり子さんも舞台に上がり、又五郎さんの音頭で三本締め。そして、勘九郎さん自ら定式幕を引いて終わるという、感動的な幕切れだった。
見終わってから、筋書きを買ったら、作・渡辺えり子とのことで、この構成力は凄い!!と同行の方と語り合う。衣装は「下谷万年サーカス」の日比野こずえさんかなぁ?と思って、筋書きを見てみたけれど、載っていなかった。
いやぁ、いいものを見せていただきました。一旦は熾烈なチケット争奪戦を思ってハナから諦めたのだけれど、3月からの襲名披露、やっぱり見たいなぁ。