十八代目中村勘三郎襲名披露三月大歌舞伎夜の部@歌舞伎座

今夜は「鰯売」に尽きる! 三島の原作を読んでいないので、なんとなくもっと格調高い芝居を想像していたのだけれど、これが非常に世話にくだけた作品。幕開きで使われた合方が、何度も何度も繰り返し出て来て、「ああ、この曲ってなんだっけなぁ?」とずーっと喉に引っかかった小骨のように気になっているのだけれど、未だ思い出せず。幕切れ近くで使われていたのは、「吉原雀」だと思うんだけど、あっちも「吉原雀」だっけ? ああ、三島全集を探して当たってみようか・・・。
ストーリーの根幹である傾城に一目惚れした鰯売が、宇都宮の殿様になりすまして、廓に上がるというところは、落語の「紺屋高尾」と似ている。途中から展開が変わって来るのは、傾城も実は鰯売に一目惚れしていた、というところから。傾城は実はお姫様で、彼女の行方を探していた家来が身請けの金を廓の主に払って、一緒にお城へ戻ってくれと頼むのだが、姫は「わたしは今日から鰯売の女房だから、帰らない」とあっけらかんと言う。あと、そんなに重要なことではないけれど、鰯売を廓に連れて行くのが父親(「紺屋高尾」では医者)というのも違うか・・・。
そんな、ある意味メルヘンチックなストーリーなのだけれど、戦の物語をしてくれと遊女たちにせがまれて仕方なく鰯売が話し始めると、和歌にことよせながら魚の名前尽くしになっているとか、幕切れに一同で鰯売の口上をやるとか、コミカルでもあって、この芝居が勘三郎玉三郎コンビの当たり芸になっているというのも納得。
花道の引っ込みで、おそらくアドリブと思われる玉三郎さんの「新勘三郎さんを末永くご贔屓のほど」とお願いするところからの二人のやり取りは、もう本当に気心が知れた同士の、馴れ合いの嫌らしさにはならないギリギリの線で踏みとどまっていて、美味しいデザートがついて来た!っていう感じでしょうか。
脇を固めた、左團次さん(鰯売の父親)、段四郎さん(廓の主)、片市さん(姫を探しに来た家来)、それぞれ適材適所でしかも御馳走という配役も良かった。
そして、禿の清水大希くん!が大活躍だった。彼はほんとに名子役だなぁ。珍しく女形、しかも遊女!の勘太郎くんも、なかなか綺麗だった。勘三郎さんの若い頃の女形とちょっと共通するものがあるように前々から思っていたので、時々、女形も見たいなぁと思う。
とにかく、御馳走をたっぷりといただいて、デザートとコーヒーも堪能した感じ。切符がとれて、本当に良かったと思う夜の部でした。

ウーン、どうも最近のわたしは院本モノがすっかり苦手になっているらしい。「盛綱陣屋」の途中は、花粉症の薬を飲んでしまったせいもあって、かなり記憶が飛んでいる! 勘三郎さんの盛綱、首実検のところが良かった。すでに切腹してしまっている小三郎の顔をじっと見て、「高綱の首に相違ございません」というところが、ドラマティック。芝翫さんの微妙は、戸板先生の雅楽シリーズの講談社文庫版の表紙を思い出した。あれは『グリーン車の子供』だっただろうか?  
仁左衛門さんの『保名』は、ウーン、上手いとか下手とか、そういうことじゃなくって、もう一つピンと来なかった。なんででしょうね?原因は自分でもわかりません。清元は、家元。ウーン、これまた・・・。タテ三味線の方の撥の使い方がなかなか派手で、時々チラチラとチェックしてしまった(笑)。