納涼歌舞伎第三部@歌舞伎座

串田和美歌舞伎座初見参の「法界坊」。序幕の定式幕が開きはじめた途端に、驚かされた(これは、未見の方は知らない方が楽しめそうなので、敢えて”驚き”の内容は伏せておきます 笑)。そして、最後の最後で「なるほど〜」と(途中でも、あったのだが、ラストで「そう来たか!」ということを強く感じた)、思った。
全体として、歌舞伎という演劇の土台はしっかりありつつ、随所に演出と役者の工夫が鏤められている、という感じかな。プログラムに串田和美さんが寄せた挨拶に、ここ4ヶ月、歌舞伎の演出に歌舞伎出身ではない演出家が携わったことについて、こんな風に述べている。

野田演劇を歌舞伎俳優が演じている。江戸時代の戯作者はこうであったろうなあと思う。蜷川さんはシェイクスピアの戯曲を歌舞伎俳優に寄って上演する試みをした。歌舞伎国の翻訳物上演だ。

「野田版 鼠小僧」「野田版 研ぎ辰の討たれ」は両方とも見ているので「その通り!」と思う。蜷川さんの「十二夜」は、見損なったので、何とも言えないのだけれど・・・。そして、串田さん自身が歌舞伎の演出をすることについて

僕自身の歌舞伎に対するスタンスは、戯曲の解釈のような気がする。(中略)つまり僕にとって、歌舞伎もまた、現代の演劇のひとつなのだ。

と述べている。野田版の芝居は、下座も使わないし、舞台装置も野田さんの芝居の様式を持ち込んでいる。ただ、演じているのが歌舞伎役者だから、セリフは現代語オンリーではないし、せりふまわしも歌舞伎っぽいところが多々ある。でも、串田さんが言うように、これはあくまでも野田演劇だと感じた。
一方、串田演出の場合、舞台装置、照明も、ベースは歌舞伎。そして、下座も普通に使っている。でも、現代人の感覚にフィットしやすいように、串田和美が「こういうところが、この芝居の面白いところなんだよ」というポイントを浮き上がらせている、という風に感じた。”野田版”も面白いけれど、歌舞伎として観る場合、どこかに違和感が残ってしまう気がしたのに対して、串田演出は歌舞伎として面白く観られたなと、私は思った。
序幕第一場 深川宮本の場
勘太郎くんが、床几を立て続けに飛び越えるところを観ていて「ああ、勘三郎さんによく似ているなぁ」と思った。勘三郎さんの法界坊の、花道の登場のところが、席の関係でほとんど見えなかったのが残念。なんか、すごく面白いことをやっていそうなのはわかるのだけれど、講中の人たちとの一連のところが見えなくて、橘太郎さんもどこにいたのか、わからなかった・・・。この場で、幕が開いた時に驚いたブツに、「エエ!」と思う仕込みがされていて、爆笑。扇雀さんのお組は、ちょっとトウが立ってないですかぁ?と思ったのだが・・・。これは、多分にわたしの好みの問題だとは思うけれど(笑)。道具を引いて座敷が前に出て来ると、亀蔵さんの番頭正八が大活躍。それをまた法界坊と勘十郎が真似するのだけれど、少しずつ動きが、それぞれのキャラに合わせて帰られていて、それがまた非常に面白かった。この3人は、ほんと身体能力が高いなぁと、いつも思うけれど、今回はさらにそれを強く感じた。
実は、橋之助さんって、あんまり好きじゃないなぁと思っていたのだけれど、今回の「法界坊」の甚三郎はすごく良かった。 
序幕第二場 八幡裏手の場
お組をさらおうとする正八、お組の嫉妬心を煽って要助の正体を聞き出そうとする法界坊、掛け軸を餌に要助に仕返しをしようとする勘十郎、この辺のドロドロを、笑いを絡めて重苦しくなりすぎないようにしているのかなぁ?と感じた。
ここまでを一気に見せて、物語の大筋をわかりやすく見せておいて、幕間。いいテンポだと思った。
二幕目 三囲土手の場
客席後方から役者さんたちが登場。「四谷怪談」の時は、お化けが客席を縦横無尽に走り回って、お客がキャーキャー言っていたなぁ。今回は、弥十郎七之助扇雀福助の皆様が出て来て(その前に、しのぶ売りの2人も登場したけど)、客席最前列のあたりでひと芝居。2階の後ろ目の席で、前に座高が高い方に座られてしまったわたしには、何が行われているのか、あまりよく見えなかった・・・。やっぱり1階だよね、どうせなら。法界坊が、雨が降って来たということで、死んでしまった野分姫のきものを羽織って、それで殺されるというのが、その後の「双面」への布石になっていたのか、ということに今、これを書きながら気がついた・・・。遅すぎだよ>自分。この場では、最後に野分姫のきものをまとった法界坊の宙乗りがあり、これまた、観るんなら1階か3階だよね・・・と。でも、歌舞伎座での宙乗りとしては珍しく?ちゃんと2階にもサービスがあった(笑)。
大喜利 隅田川の場「双面水照月」
この踊りは、常磐津のみなら、何度か観たことがあったのだけれど、義太夫との掛け合いは初めて。概ね、野分姫の部分が常磐津で、法界坊の部分が義太夫なんだ・・・。お組にそっくりの怨霊は、本物を見分けるために同じ踊りを踊るわけだけれど、ウーン、勘三郎さんと扇雀さんだと、やっぱり勘三郎さんの上手さがすごく目立っていたなぁ。扇雀さんは、背を盗んでいるせいもあるのだろうけれど、腰の位置がもう一つ決まっていないように思う。振りがほとんど同じだけに、ね・・・。
そうそう。この場は、勘三郎さんの怨霊が、お組の外見で、野分姫と法界坊を踊り分けるところが眼目なわけだけれど、お組で踊っていて法界坊になった途端に、笑いが起きていた。確かに、それまで完全に女形の踊りを見せていた館三郎さんが、いきなり男踊りになるので、ここへたどり着くまでにさんざん笑わされていたから、この変化もその延長線上に見えてしまっているのかもしれない。その辺を、どうやって伝えるか、というのが今後の再演での課題かな?と思った。途中、人形振りの時に使う黒子の衣装を着た後見?が出て来る。これは多分、串田演出だと思うのだけれど「ああ、なるほどね」と思った。義太夫が出てるしね。
勘太郎くんの女船頭は、花四天とのカラミの部分に、もうひと越え、と感じた。この辺は経験でしょうかね・・・。
最後は押し戻しになって、甚三郎が大きな巻物を持って花道から登場。あ、これも初めて観たけれど、もともとこの部分がついていたのだろうか? 後で調べてみますです。
そうそう、後見で小山三さんが出て来てくださり、お元気そうなお姿を拝見できて、嬉しかった! 
それと、芝のぶさん、やっぱりいいです。どんどん大きなお役がつきますように!