いやはや、1月も終わってしまった。年々、自分が年をとるにつれて、どんどん時間の経過が早く感じられるようになっている。今年もあと11ヶ月しか残ってないのか、と思うと、ゾッとするな。
1月の収穫は、

浄瑠璃素人講釈〈下〉 (岩波文庫)

浄瑠璃素人講釈〈下〉 (岩波文庫)

人間国宝・尾上多賀之丞の日記―ビタと呼ばれて

人間国宝・尾上多賀之丞の日記―ビタと呼ばれて

の3冊。
最初の2冊は、どちらも積ん読になっていた本で、もっと早く読んでおけばよかった!!と思った。
浄瑠璃素人講釈』は、上下併せて購入したはずなのに、なぜか、上巻が未だ発掘できていないという体たらくではあるのだが…。
杉山其日庵って誰?と思ったら杉山茂丸の雅号だったのか。とはいえ、杉山茂丸もなんとなく名前を知っているという程度なのだが。
昭和初期ぐらいまでは、政財界の大物たちが、こぞって芸事を習っていたというのが、其日庵の記述の中に出てくる豪華メンバーの名前をみてもわかる。
『芸十夜』でもそうなのだが、この本でも「今は、本当の芸ができる芸人がいない」「本物を見分けられる客がいない」ということが、繰り返し述べられている。大正から昭和にかけてでさえそうなんだとしたら、現代は…? 
そんなことも考えさせられた。
人間国宝尾上多賀之丞の日記』。
前半は、著者が多賀之丞さん本人との付き合いや、周囲の人から聞いたことを記した評伝っぽい感じ。後半が多賀之丞さんがつけていた日記を翻刻したもの。
多賀之丞さんが時折日記に記している芸評、辛辣なものがある。「ええ、あの人が?!」という大物役者さんの芸も、多賀之丞さんの芸の基準から見たら…ということなのだろう。
役者ばかりでなく、一部の劇評家に対しても、厳しい評価が…。
昔は、役者と劇評家との間で喧々諤々の論争が繰り広げられたりしたというが、それも役者のバックに「家」というものが控えているから可能だったのか? 
それにしても、今の菊五郎さんは、ずいぶん多賀之丞さんからいろんなお役を教わっているんだなぁ。
『五代尾上菊五郎 尾上菊五郎自伝』。
これは、今月演舞場にかかっていた「実盛物語」について、手元にある本で言及されている個所を探していたときに見かけた本で、たまたま木挽堂さんで見つけたので、ゲットした1冊(六代目の『芸』も一緒に購入して、ただいま読書中)。
十五代目羽左衛門が家橘時代に、初役で実盛をした時に、五代目がそれを見て出したダメを、伊坂梅雪が書き取ったものだそうだ。
『歌舞伎ちょっといい話』の中で、このエピソードが何度も出てくる。それぐらい十五代目の実盛はよかったのだろうし、五代目のダメを活字にしたということも、当時としては貴重なことだったのだろう。
五代目菊五郎については『空飛ぶ五代目菊五郎』という面白い本があって、その写実にこだわる、こだわりっぷりや新しもの好きという、いわゆる「名優」というイメージとはちょっと違う、お茶目な面を読んでいた。
この自伝に出てくる、大道具の火事見物に行くのに、大道具の長谷川勘兵衛の刺し子半纏を勝手に借りちゃった話、留守の間にお寿司を勝手に食べちゃった話とか、病気で倒れて出先から家に運ばれるときにまで「形」にこだわった話など、「ちょっといい話」的なエピソードがたくさんある。その一方で、「昔はそんなことはしなかった」という事柄を、理由も含めて述べられていて「なるほどねぇ」と思うこともいろいろあった。
いやはや、これももっと早くに読んでおくべきだったなぁ…と後悔する一方で、出会うべき時に出会ったのだ、と思うところもあったりする。
学者さんが書いた本を読むことも勉強だけれど、実演家の体験に基づいた話=芸談 を読む(できれば直に聞く)ということも、大事だ。
芸談好きといいつつ、まだまだ読んでいない芸談はたくさんあるので、これから宝の山に分け入って行けると思えば、それもまた幸せなことだ。
歌舞伎 ちょっといい話 (岩波現代文庫)

歌舞伎 ちょっといい話 (岩波現代文庫)

明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎

明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎