出会いは必然

待望の高橋徹<A HREF=http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3be9eb04314cb0105a09?aid=p-mittei16105&bibid=01573356&volno=0000>『古本屋月の輪書林』</A>(晶文社)読了。
月の輪書林の名前は、坪内師匠の著作で、何度も目にしていた。
そして、その主である高橋さんが作る目録は”スゴイ”ということも。
残念ながら、まだ月の輪書林の目録を手にしたことはないが、この本を読んでいると、その”スゴサ”が、少しずつわかってくる。

第十号の目録「美的浮浪者・竹中労」を作っている最中に、水道管の亀裂が原因で、店中が水浸しになってしまって、苦労して集めた本がダメになってしまい、茫然とする高橋さんを励まし、後片付けを手伝ってくれたのが、奥様の”ミオちゃん”と、あの石神井書林の内堀さんだ。

そもそも、「君は目録で行くべきだよ」と、まだそれほど親しくもなかった高橋さんに薦めたのが内堀さんで、その後、市の入札ではしばしばライバルになり、一緒に勉強会を開く仲間であり、資金繰りに困った高橋さんにお金を貸してくれる頼もしい先輩でもある。

古本屋さん同士の交流には、「戦友」という言葉がぴったりするように思う。内堀さんに限らず、あの中山信如さんが、「明治古典会」に通い始めたばかりの高橋さんを、入札の途中で荷物置き場に呼んで、こっそり紙袋をわたしてくれた。勝手がわからず資金も潤沢ではないけれど、欲しい本を必死に落札しようともがいていたのであろう高橋さんに「よかったら使ってくれ」といって、ジャンパーやとっくりのセーターなが入っていたのだという。嬉しくなった高橋さんは「はりきって映画の本に入札するが、中山さんの下札にもとどかない」。

高橋さんは言う。「古本屋は書評を書かざる、真の書評家だ」と。そして、本との「『出会い』とは、偶然の産物などではけっしてなく、まちがいなく必然のなせるわざだと確信します」。

ルポライター事始め』という1冊の本からスタートした高橋さんの目録は、どんどん興味の対象は広がり、一見無関係に思われる何千という本が”竹中労”というキーワードで結ばれてしまう。
たったひとりの人間の好奇心が、これだけの本を集めてしまうのだ。
わたしの好奇心など、まだまだ多寡が知れているということを痛感する。