円紫師匠と”わたし“シリーズ

北村薫さんの『夜の蝉』(創元推理文庫)読了。

先日、このシリーズを「円紫師匠シリーズ」と便宜上書いてしまったが、2冊目を読んでみると、これは「わたし」の物語なのだということを、強く感じた。
もちろん、謎を解いて見せるのは、円紫師匠なのだが、物語は「わたし」の周囲の人々、そしてそこで起こったことが丹念に描かれているからだ。

表題作である「夜の蝉」で、「わたし」と姉との心模様が始めて明かされる。
それまでは、美人で頭が良くて、身につけるもののセンスも抜群という、絵に描いたような姉でしかなかった。しかし、この「夜の蝉」で初めて、姉の内面が明かされる。
そして、「わたし」が幼い頃から心の奥で感じていた、姉への畏怖が、溶けていく。

いわゆる”本格”ものは、あまり読まないので、これが”本格推理小説”なのかどうかは、わたしにはよくわからない。しかし、小説としては、楽しめるばかりではなく、心のひだに触れる、ステキな小説だと思う。