銀座の鮨屋の千夜一夜物語(後)

さらには、新津さんの心配りの細やかさ。酔っ払ってしまった小林秀雄を、鎌倉の自宅までタクシーで送り届ける時に、ポケットに杯と徳利を忍ばせておいて、高速に乗ったら二人で飲み始めたという話、辻邦生さんが亡くなられた後、ショックで寝込んでしまった佐保子夫人が立ち直るまで、39日間、毎朝8時に電話をかけて起こした話、などなど。
心の底から相手のことを思っていなければできないな、というエピソードがたくさん出てくる。
そして、その語り口は、懐かしい人との思い出話のそれであって、そこからは押しつけがましさも、いやらしさも、微塵も感じない。

ちなみに、新津さんが敬愛して止まない、辻邦生の作品はいくつか読んでいるのだが、改めて<A HREF=http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3be9eb04314cb0105a09?aid=p-mittei16105&bibid=01687297&volno=0000>『西行花伝』</A>あたりから読みなおしたくなった。新津さんが語る「辻邦生」が、あまりにも魅力的だからだ。「きよ田」を閉める直接のきっかけが、辻さんの死であったというくらい、新津さんは惚れ込んだ。