吉川潮さんこそ、本物の演芸評論家だ

吉川潮<A HREF=http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3be9eb04314cb0105a09?aid=p-mittei16105&bibid=01981172&volno=0000>『突飛な芸人伝』</A>(新潮文庫)読了。

17人の「突飛な芸人」の評伝。型にはまらず、自分にしかできない「生き方」を貫いている。17人のうち、目次でお名前を拝見して「ああ、あの人」とわかった人が12人。しかし、わかった方々も、ブラウン管を通して知っているのとはまた違う「顔」で登場する。
そして、吉川さんの本を読むと、そこに登場する愛すべき芸人さんたちの芸に触れてみたくなる。わたしにとっては、坪内師匠、中野翠さん、北村薫さんと同じような位置づけの方だ。

志ん朝さんと生年月日が同じ、月亭可朝さんは
<b>「同じ日に生まれて、同じように落語家になって、芸名にも同じ”朝”の字が付いてて、どうしてこんなにも違うんやろ」</b>
と、他人事のようにいって笑ったという。

また、笑点でお馴染みの林家木久蔵さん率いるラーメン党の副会長が、あの横山やすしさんだったとは、知らなかった。
<b>テレビでやすしと共演して親しくなったのはもう十年以上も前のこと。ほどほどの付き合いでやめておけばやかったが、魔がさしたのか、一度自宅に招いてしまった。
それからというもの、東京で飲んでいると電話をしてくる。夜中だろうが明け方だろうがお構いなしだ。(中略)
やすしに会うといつも疲れるのだが、しばらく会わないとたまらなく会いたくなる。久しぶりに会って「アホ!」と怒鳴られると、ジーンとくる。マゾヒズムに近い快感。木久蔵はそれを”やすし症候群”という。</b>

「お笑い芸人相撲大会」で優勝し、初代横綱になったという桂文福さんの、太刀持ちをしていたのが、明石家さんまさんだった、というのもびっくりだ。

他にも、いろいろなエピソードが紹介されているが、一貫しているのは、吉川さんが、ここで取り上げた17人の芸人さんたちを心から愛していらっしゃるということ。落語は決して上手とはいえないのに、その愛すべき人柄で多くのご贔屓さんを持つ柳家小三太さんの真打ち昇進披露パーティーでのスピーチは、その真骨頂だろう。だからといって、あくまでも芸人さんたちとは、一線を画したお付き合いをされているということも、伝わってくる。
吉川さんのような人こそ、評論家と呼ぶに相応しいのだと、思う。