古本屋が主人公ならではの『ドールズ』(1)

最近、中公文庫に入っていた本が、角川文庫に入るケースがいくつか目に付いた。たとえば、北村薫さんの『冬のオペラ』や高橋克彦さんの『ドールズ』などだ。こんなドル箱作家の作品を手放してしまうというのは、裏に何か事情があるのだろうか? ちょっと不思議だ。しかも、角川文庫は以前から絶版(版元品切れ)サイクルが早いので、ちょっと心配でもある。

高橋克彦さんの『ドールズ』(角川文庫)読了。
高橋さんの作品は、『写楽殺人事件』など、一連の浮世絵モノはかつて結構読んでいた。しかし、その後の作品、とくに『総門谷』に代表されるUFOなどが登場するような作品やホラーっぽいものは、なんとなく敬遠していた。しかし、福田和也さんのおススメにより、『ドールズ』に挑戦してみた。これが非常に面白かった。そして、この小説の主人公が古本屋さんという点にも、興味をひかれた。

物語は、一人の少女が深夜、雪の降りしきる道路に飛び出して車に轢き逃げされるところから始まる。そして、その事故をきっかけに彼女の体調が通常、子供には考えられない状態にあることが、少女の父親の友人である医師によって発見される。精密検査の結果と、病室の監視によって、彼女の症状は「生まれ変わり」なのではないかという疑惑が浮かび上がる。少女の伯父で、古本屋の主である主人公が、彼女を救うために、人形作家の女性や医師たちと協力して、彼女の体に宿った生まれ変わりが誰なのかを追う、というのがストーリーの流れだ。
少女の母は主人公の姉で、数年前に病気で亡くなっており、普段は祖母がいっさいの面倒を見ているという事情が、少女の父親の不可解な行動の裏付けとなって、ストーリー展開を引っ張っていく。