真実の闘病記

今日も快晴だが、ちょっと風が強い。

江國滋さんの『おい癌め酌みかわそうぜ秋の酒』(新潮文庫)と、句集『癌め』(角川文庫)読了。
江國さんのことは、テレビ番組のコメンテーターなどとして、ブラウン管を通してお名前とお顔は存じ上げていたし、雑誌のコラムなども読んだことはあった。
しかし、俳人としてのお顔については、今回、2冊の本を読むまで、まったく知らなかった。

読みながら感じたのは、その強い意志の力だ。もちろん、途中で何度も病状の変化に伴って、弱気ともいえる状況になる。しかし、江國さんは、奥様はじめ、周囲の友人たちの支えを受けながら、かならず前向きに病と闘う気力を奮い立たせていらっしゃる。
そして、もう一つ、その闘う気力の支えとなっているのが、『癌め』としてまとめられた闘病句だった。江國さんは、癌を告知された時に、「子規や波郷にも勝る、闘病句を読む」という決意をされる。そして、その日から数々の俳句とともに、闘病日記をつけておられる。その日記が『おい癌め酌みかわそうぜ秋の酒』だ。

亡くなる前年の秋、雑誌の編集者にご自身の辞世の句を季語の春夏秋冬そして新年の分と五句考えて、連載の最終回に自身で追悼するために、預けてあったのだという。その句と一緒に残された原稿の冒頭に
<b>あずかっていて下さい。その日は、まだ当分こないと思いますが</b>
というメモがあったという。
その原稿を書いたのと同じ時期、江國さんは体調に異変が起こっていることをどうやら、感じておられたらしい。だが、まさか1年経たぬうちに、この原稿が日の目を見るとまでは、考えていなかったのではないだろうか。

以前に読んだ女性建築家・長尾宜子さんの闘病記『燃えるがごとく、癌細胞を焼きつくすー最高のインフォームド・コンセントを求めて』も、病と闘う上で、心の支えとなるものを持つことができた人の強さというものを教えていただいた気がする。長尾さんは、癌を告知されてから短歌を詠み始め、その時々の心情を歌に託していらした。そして、江國さんの闘病日記は、常に前向きに闘うところばかりでなく、ときに傷付き、心くじけてしまったことも、時にユーモアを交え、綴られている。
決して、きれいごとではない、真実の闘病記だ。