信頼を寄せるに値する評論家

曇り空の、寒い一日だった。
福田和也さんの『成熟への名作案内』(PHP研究所)読了。
あとがきで福田さんは、
<b>類書にあきたらない思いをしている、本好きの方にとっては、読み応えのある本になったのではないかと思っています。</b>
と書いていらっしゃる。
わたしにとっては、読んでいないか、読んでみたいと思いながらまだ読むに至っていない本が多かった。

17の章に2作品ずつ、紹介されているのだが、講談社文芸文庫新潮文庫が多い。講談社文芸文庫が34作品のうち9作品、新潮文庫が8作品と、全体の半数を占めている。「ダ・ヴィンチ」の連載ということで、入手可能なものを選んだということも、大きく影響しているかもしれないが。

取り上げられている作品は、古典から伝記、評論、芸談といったものまで、幅広く、福田さんの守備範囲の広さが伺われる。
中でも、「階級」の章で取り上げられていた獅子文六の『但馬太郎治伝』や、「保守」の章で紹介されたカズオ・イシグロの『日の名残り森鴎外の「じいさんばあさん」などは、ぜひ入手して読んでみたいと思った。また、”積ん読”本の中に埋もれている、林芙美子の『放浪記』も、これを機会に掘り出そう。

福田さんは『ひと月に百冊よみ三百枚書く私の方法』という本を書いていらっしゃるが、看板に偽りなしだということを、この本を読んで改めて感じた。
鹿島茂さんが”数を読んでいない評論家の書評は信用するに足らない”と、『成功する読書日記』の中で書いていらっしゃった。その意味でも坪内さん、鹿島さん、福田さんは、そういう意味でも、”信用するに足る評論家”である。
このところ”積ん読気味”になっている福田さんの他の著書も、読むことにしようと思う。