仁玉コンビ+左團次さんで堪能した「御所五郎蔵」(2)

続いて「甲屋奥座敷」の場。旧主が廓通いで作ってしまった二百両の借金の工面に奔走する五郎蔵。玉三郎さん演じる傾城となった皐月が、なんとかしようとするのだが、金策に詰まってしまい困っていると、これ以上ないというタイミングで、左團次さんの土右衛門が「この金を用立ててやる。昔から好きだったお前のことだから、返せとは言わない。そのかわり条件がある」と、皐月に、五郎蔵への縁切りを迫る。迷う皐月だったが、背に腹は代えられないと、土右衛門の申し出をし渋々ながら受け入れて、去り状を書く。
皐月が「去り状を書きます」と言った時の、土右衛門の笑顔がステキだった。役柄としては、完全なる敵役。憎むべきは、お金を餌に皐月を自分のものにしようとする土右衛門なのだが、国元にいたときからずっと皐月を思っていた、その思いがようやく通じたという嬉しさが、左團次さんの演技で垣間見えた。
時鳥が書き上げた去り状を、門弟に届けに行けと命令するのだが、ダサくて意気地なしの門弟軍団は、すっかり腰が引けてしまい、「みんなで揃って行こう」などと言っているところへ、借金取りに「早く返せ!」と迫られながら、五郎蔵が登場。
「ちょうどいいところに来た」と、衆人環視の中で去り状を渡され、バカにされた五郎蔵は、皐月の苦衷も知らず、工面した二百両を「こんな金をもらったら、笑い者になるから、いらない」と突っ返そうとして、すったもんだになる。そこへ登場するのが、この悲劇の真の被害者で、借金の元になってしまった傾城・逢州。その場はなんとか納めて、五郎蔵を帰す。
一方、土右衛門は「せっかく自分の女になったんだから、皐月と一緒に花形屋へ行くんだ!」と、持病の癪が痛いという皐月の真意を疑って、だだをこねる。大枚二百両も使って、やっと自分の女にした(はず)の皐月なんだから、そりゃあ仲之町を見せびらかして歩きたいという土右衛門の気持もわからなくはない。でも、皐月の心中がわかる逢州は「わたしが、代わりに皐月さんの打掛けを着て、皐月さんの提灯をつけさせて、花形屋まで行きますから、今夜のところは勘弁してあげてください」と、土右衛門を説得する。
これが、悲劇の引き金となるとも知らず、皐月は本心を綴った手紙を、自分の打掛けとともに逢州に託す。