るつ子のこの先の人生は?(2)

この小説でもう一つ強く印象に残るところとしては、関東大震災に遭ったるつ子とおばあさんが、その天災をなんとか切り抜けた後に、命長らえた者としての切り抜け方にあると思う。
幸田文の筆は、ある意味淡々とした味わいに終始しているのだが、この未曾有の災害とその復興の中での女二人の生き方は、見事だ。
もしも今、大地震にわたしが遭遇してしまったとして、その第一の窮地を生き抜くことができた時に、はたしておばあさんとるつ子のように、その後の困難を解決していくことができるだろうか?と考えてみると、心もとない気がする。彼女たちのように、力強く生きて行くための方策を考え付き、実行に移すことは、とてもできそうにないと思ってしまう。
幸田文に「あなたは、真剣に生きている?」という問いかけを突き付けられ、と同時に、人ととしての在り方を教えてもらった気分だ。

辻井喬さんの解説によれば、幸田文自身も、この作品は未完という風に位置づけていたらしいので、彼女の生前には刊行されなかったのではないか、と推測している。さらに、この『きもの』は、私小説という体裁はとっていないが、幸田文という女性の物語であるという指摘には、わたしも大いに頷く。
だからこそ、この先のるつ子の人生を幸田文が書いておいてくれれば、と思わざるを得ない。