談春さん三昧の贅沢な週末(5)

「俺の怪談は怖いでしょ?」と最後におっしゃっていたが、サービス精神が旺盛すぎて、わたしには、談春さんの怖い話はあまり怖くなかった(ごめんなさい、でもグーで叩かれてもいいです)。

仲入りをはさんで、最後は「不動坊」。
亭主が遺した借金を肩代わりしてくれるなら、嫁に行ってもいいと、岡惚れしていた女に言われて、すっかり舞い上がってしまった男の噺だ。今夜にも祝言を挙げるといわれて、家を片付ける前に自分が綺麗にならなくちゃ、ということでお風呂屋さんに出かけていく。そこで、夫婦喧嘩の予行演習をするのだが、それを近所の男どもに聞かれてしまう。しかも、みんなの悪口を言ってしまったから、仕返しに祝言の席へ幽霊を出して、破談にしてやろうと、みんなの相談はまとまる。
幽霊役に噺家の弟子という男が呼ばれ、幽霊の格好で引き窓から恨み言を言ってくれと頼む。「衣裳はありますか? 焼酎火の準備は? ドロドロはやってもらえるか?」と聞かれて、衣裳は自前で、焼酎火とドロドロはこっちが用意することになって、役割分担が決まる。ところが、ちんどん屋の男にアルコールを買って来いと言ったのに、アルコールがわからずにあんころ餅を一升瓶に詰めて持ってきてしまったり、ドロドロの太鼓も、他のものを外すと後でくっつけられなくなるからということで、ちんどん屋のまま持ってきてしまう。
いよいよ祝言ということで、噺家の弟子を引き窓から吊るして下ろすと、「焼酎火をお願いします」と言われて、一升瓶の中身をボロ布にかけて火を点けようとしても、中身があんころ餅だから火がつかない。「まあ、無くてもいいです」ということにして、それじゃあ「ドロドロをお願いします」というので、叩けというと、ちんどん屋の陽気な鳴り物がなってしまう。「もういいから、セリフだ」と思たら、決めたセリフを忘れていて、しかも下手っぴいだからちっとも怖くない。
で、見事に作戦は失敗という噺。

よく、江戸は男の街だから、女性は貴重品だとものの本などで読む。「汲みたて」もそうだけれど、江戸の町でおかみさんを持つのが、いかに大変なことか、というのが落語を聴いているとよくわかる。
一人の女をめぐって、大の男どもが右往左往するのが、とてもおかしい。

何はともあれ、楽しい「談春三昧」の週末だった。
来月に持ち越しの「化け物使い」に、ますます期待は高まる。