憧れのきもの

白洲正子さんといえば、お能と骨董が頭に浮かぶ。そして、数年前、とある女性ファッション誌で紹介された、武相荘のたたずまいや、ミッソーニ、サンローラン、ディオールといった一流のデザイナーの手になる洋服をさっそうと着こなした姿も、鮮明に記憶に残っている。

きものに興味を持つようになってすぐの頃、白洲さんが、かつて西銀座で「こうげい」という名前の、きものをはじめとする染色工芸品を扱うお店をやっていらしたことを知った。

「こうげい」は、単なる工芸品の店ではなく、白洲さん自身が日本全国から選んだ、優れた手技によって生み出された布だけを扱う、今でいうなら”セレクト・ショップ”とでもいうお店だったのだそうだ。

白洲さんがどんな布を愛し、どんなきものや帯を身に着けていたのか、興味を覚えたところへ、偶然、きもの本のコーナーではなく、白洲さんや須賀敦子さん、山田稔さん、池内紀さん、川本三郎さん、といった方々の随筆が並ぶコーナーで見つけたのが、武相荘が出版した『きものー春』『きものー夏』という50ページ足らずのカラーB5版の写真集だ。

もちろん、白洲さんのきものを集めた立派な装丁の本もあるのだけれど、この『きものー春』『きものー夏』という2冊の写真集に心惹かれてしまった。

この写真集で取り上げられているのは、春も夏も、紬や絣、ロートン織といった素朴な味わいの織物が多い。素材も麻や木綿が多いそうだ。そこに、白洲さんが選んだ染織作家が模様を染めたきものもある。しかし、能衣装の唐織りのような重厚な織物は無い。布の色も、紺や生成りといった色が多く、それでいて時折ハっとさせられる裏地で仕立てられたものもある。

もともと、なぜか友禅のような柔らかな染め物よりも、紬や絣といった織物が好きだったわたしにとって、白洲さんのきものや帯は、どれもこれも、ため息が出る。

何気ない縞が実は手描きだったり、間道という織物に梅柄が染められていたり、一見何気なくも見えるのに、実は手が込んでいてそれが強く主張しない。

白洲さんのきものの、ほんの一部だが写真を見て、やっぱりわたしは織物が好きなんだなと、改めて思った。

願わくは、『きものー秋』『きものー冬』も出していただきたい。