真の”ぜいたく”を語る(1)

先日、ミックス寄席で聞いた桃太郎さんの新作落語の2席目。日本で屈指の大金持ち一家を題材にした噺。お金がありあまっていて困ってしまうから、子供の小遣いを3000万円増やすとか、家の部屋数が何百とか、金持ちの滑稽さをデフォルメした噺だった。一般的に「ぜいたく」というのは、こういうものと思われているのかもしれない。しかし、そうではない贅沢の方が、実は本当の贅沢なのだ、ということを教えられたのが、戸板康二先生の『ぜいたく列伝』(文春文庫)だ。

戸板先生が選んだ、真の”ぜいたく”な人とは、どんな人なのかと、目次を見て行くと、光村利藻、十一代目片岡仁左衛門谷崎潤一郎吉田茂横山大観大倉喜七郎藤原義江内田百間長谷川巳之吉、徳川善親、西條八十小林一三堀口大学梅原龍三郎、鹿島清兵衛、花柳章太郎、御木元幸吉、福地楼痴、益田太郎、志賀直哉、五代目中村歌右衛門、薩摩治郎八、西園寺公望という、錚々たる人々だ。

芸術家、財界人、政治家、作家などなど、お馴染みの名前もあれば、知る人ぞ知る名前もある。もともと、名門・資産家に生まれ、先祖からその財力や名声を受け継いだ人もいれば、自分一代でのし上がって来た立志伝中の人物もいる。
そんな彼らに共通するのが、単に金に飽かせた”ぜいたく”をしたわけではない、という点だ。
彼らは、自分の趣味や嗜好のために大金を使いながら、実は、日本という國のある分野に、その使った金が活きる使い方をしている。あるいは、自分のこだわりを貫くという意味での”ぜいたく”であったりする。