ますます目が離せないシリーズに!

宇江佐真理さんの「髪結い伊三次」シリーズ最新作。これまでは、伊三次とお文夫婦がこのシリーズの主役で、その二人を巡る人間模様という描き方だったのだけれど、シリーズも進んで来て、展開に変化が見られる。伊三次の旦那である不破友之進の息子・龍之介がいよいよ奉行所に同心見習いとして召し出されたことで、この「妖刀」から「君を乗せる舟」までの6篇を通して、若き同心見習いの青春物語というのが、この1冊を貫く通奏低音となっている。そして、本所でたびたび騒ぎを起こすことから”本所無頼派”と呼ばれる6人の若者(ほとほとが旗本や御家人の次男・三男坊)と、龍之進と朋輩5人が彼らと対決するため”八丁堀純情派”と名乗り、団結するというストーリーは、これからのこのシリーズの、もう一つの大きな要素となることを、予感させる。相変わらず、宇江佐さんが紡ぐ物語は、どれも美しいのだけれど、特に表題作となった「君を乗せる舟」のラストは、すばらしい。
「その道 行き止まり」「おんころころ・・・」も、そうだけれど、宇江佐さんが「タイトルが決まると、そこから自然に物語が湧いて来る」という意味のことを以前書かれていたのを読んだけれど、この3篇は特にその宇江佐さんの物語作りを感じさせられる。
伊三次とお文、そして息子の伊予太の今後も気になるのだけれど、龍之進たちのこれからも、また、とても気になる、一粒で何度も美味しいシリーズに、スケールアップしたのではないだろうか。