音曲師

あいかわらず、『談志楽屋噺 (文春文庫)』をちょびちょびと読んでいる。他の落語関係の本でもお名前をおみかけしていた方の思い出が、次々に。そんな中で、「音曲、紙切り、曲芸−小半治」という項がある。
小半治さんのお名前は、他の本でもたびたび見かけていたけれど、そこで語られるのは、「ギザの小半治」としてのエピソードばかりだったので、その芸風は、初めて知った。

私は小半治の芸が好きで、都々逸の文句を多く覚えている。
「きょうの苦労は理想の稽古、添うたその日が揚げざらい、なんて。
「腹立ちまぎれに擂り鉢ォ壊し、明日の朝から落とし味噌
「片手ずつ、手と手を合わせて、“ああもったいない”と、二人で拝んだ窓の月
かと思うと、
「エロの襦袢にグロ襟かけて、できた模様がナンセンス
なんという変な歌詞(もんく)があったり、
「一昨日別れて、昨日も今日も、便りないので“おれは待ってるぜ”
これは裕ちゃんが出てきた頃だ。小半治の音曲は、全部尻切れとんぼと楽屋は言ってたけど、私はこの人の都々逸が好きだった。都々逸というと、みんな三亀松の都々逸を思い、それが定着しているが、あれはあの人の都々逸で、小半治さんのはまた違ってた。

「さのさ」でも、世間では江利チエミが唄った、三亀松直伝の「さのさ」になっているが、小半治さんが唄うともっと陽気な「さのさ」で、こっちの方がその昔の“サノキュ”の「さのさ」に近いのではないか・・・・・・。
「腹立て、したのは、私が悪いのさ、あっ、さのさ、ってこういう「さのさ」なんです。三亀松さんのは「なんだ、なんだなんだぁーねーっ、て、艶っぽく作り直した三亀松節で、小半治のは、浮いてくるような昔の音曲師の都々逸でした。
                                                                   P.97-98

こういうことは、誰かが書き残してくれないと、わからなくなっちゃうから、貴重だと思う。小半治さんの音源は残っていないのかなぁ・・・。
紫朝師匠のことも出てくる。倒れた後に書かれたようで、「柳家紫朝の再起、期待や大である」と。