『酒場の芸人たち』
人を描いて、こんなに温かな気持ちに満ちている人って、そんなにいないよな。なんだか読んでいて、ほんわかとした幸せな気分になれる。最初に浅香光代一座との九州巡業のことを、ポップな文章で描いた一文から、なんだか楽しくなってくる。本当は、御難続きの旅なのに。それは、もちろん座長である浅香さんのお人柄によるところも大きいのだけれど。でも、矢野さんの筆によって、その浅香さんや、一座の方々の人柄が、きちんと描かれているから、読んでいて楽しいのだと思う。
小三治師匠・神吉拓郎さんとのゴルフの話、戸板先生との思い出、志ん生・文楽・三平・円生の追悼文、どれも、矢野さんだからこそ、と思う。そんな中でも、一番好きだなぁと思うのが、柳朝師匠についての「さらば柳朝」。柳朝師匠は、ある意味、わたしと落語の接点を作ってくれた噺家さんだから、勝手に思い入れがある噺家さん。きっと、誤解を受けやすいタイプだったんだろうと、思う。だけど、矢野さんはそんな柳朝師匠のことを、同じ東京っ子として、ちゃんとわかっていらして、柳朝師匠の素敵なところを描いている。
色川さんの『なつかしい芸人たち』を、また読みたくなってきた。
酒場の芸人たち―林家正蔵の告白 (文春文庫 (や16-12))
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そうそう、知人のお父様が登場なさって、びっくり。経歴はなんとなく存じ上げていたのだけれど、なるほど、そういうつながりがあったんですね、という事実を教えていただいた。