若手研精会@日本橋劇場

平治さんが、マクラで「この辺は昼と夜では景色がまったく変わるので、迷子になった」といって笑いをとっていたけれど、ほんと、そんな感じ。前に何度か来ているが、いつも夏前後なので、夕方でもあたりはまだ明るかったから、迷いそうになったよ、ホント。
番組は
志ん坊「元犬」
遊一「真田小僧
一之輔「ふぐ鍋」
平治「鈴ヶ森」
仲入り
鯉橋「粗忽長屋
三之助「芝浜」
志ん坊くんは、前座らしいハキハキしたしゃべりっぷりに好感が持てる。高座態度は結構堂々としているんだけど、変に作らずに噺をまっすぐにしゃべっているのが○。
二つ目の中では、やはり一之輔さんが抜けてる感じ。「ふぐ鍋」は前に一琴さんで聞いて、大笑した記憶があるが、それとはまた違う味があった。
平治さんは、久しぶりに高座を聞いた。喜多八さんから教わった噺とのこと。ダメな泥棒見習いのリアクションなど、ちょっと雰囲気が権様に似てる気が…。
三之助さんは、平治さんにネタばらしをされちゃったけど、どうするんだろう?と思ったら「芝浜」をそのまま。今までに何人かの噺家さんのこの噺を聞いている。「あ、ここはあの人と同じ行き方」という部分は当然あるのだけれど、通して聞くと自分の色をちゃんと出しているのが、真打目前の人として、頼もしい。
おかみさんにたたき起こされて家を出てから、財布を拾うまでの描写の中で、情景を丁寧に表現していくことで、芝の浜辺の朝の空気がよく伝わってきた。また、河岸へ向かう道中で、犬に吠えられて「馴染みの犬に忘れられちゃうようじゃダメだ」というあたりで、更生への緒を振っているあたりも、さりげないけど、いいと思う。
財布を拾い家に帰って金勘定をするところは、まずおかみさんに数えさせてから自分で数える(おかみさんはチューチューたこかいな、魚勝はひとひとひと)。五十二両という大金に気を良くして二度寝、お湯屋に行き、友達を連れて帰ってきてひと騒ぎ、酔の勢いで寝込む。そして、起き上がってからおかみさんの「夢だよ」になる。「飲んだり食ったりが本当で、金を拾ったのが夢?! そんな馬鹿な!」といいつつ、「この勘定をどうするんだ?」と詰め寄られて「明日といわず今日から酒をやめるから、あの勘定をなんとかしてくれ」と頼む。そして、働き始める。
そして、3年後?の大晦日。お湯から戻った魚勝はついに本当のことを打ち明けられる。
今までわたしが聞いた他の噺家さんとの大きな違いは、この夫婦に子どもがいることをはっきり語った点。障子を張り替えたり畳を替えたりということより、子どもができたということが、二人の暮らしの順調さを印象づけた。
おかみさんの告白が湿っぽくなりすぎないところがいいなと思った。そして、お馴染みの落げもさりげなく。余韻を持たせることに成功した。
あとは、最初の方の説明的な部分(草鞋を濡らさない、とか、タバコの火、など)を整理したり、地の語りの部分を洗いあげて行けば、もっと素敵な三之助の「芝浜」になるだろうと思った。