こんな本屋さんがあったなら(3)

自分にとって「いいな」と思える書店で、「あ、これこれ」とか「え、こんな本が出てたんだ」とか「あー、やっと巡り会えた」という感激を味わって、それを店の人との会話のなかで、伝えることができたらいいな、と常々思っているが、残念ながら近頃の書店では、なかなかそんなことはできそうもない。
そんなふうに思っていただけに、「烏書房」のような本屋さんがあった神戸・元町がうらやましい。そして、そういう書店が閉店しなければならないことが残念でならない。

わたし自身、中学生時代、3日とあけずに入り浸っていた本屋さんがあった。何をそんなに話すことがあったんだろうと、今になると不思議なくらい、放課後から夕方暗くなるまで、その本屋さんの店長(といっても、オーナーが別にいらしたので「店長」と言っていただけで、ほとんど彼が一人で切り盛りしているような店だった)と、おしゃべりをしたり、本棚を眺めたりして過ごしていた。
あの頃、もっと本そのものを読んでおけばと、思わないわけではないが。

現在のお気に入りの書店でも、まだまだ店長さん以外はアルバイトの学生さんたちばかりなので、ほとんど話をしたことはない。店長さんにも「○○はないですか?」と聞く程度で、それ以上突っ込んだ話はしたことがない。だが、先日、ちょっといい光景を見かけた。
お年の頃は70過ぎくらいのおじいちゃま。どうやら常連さんらしく、店長さんがレジの外に出て、「昨日、こんなのが入ってきましたよ」と言って新刊の棚の前でおじいちゃまと話していた。
おじいちゃまの方でも「こんなのはないですか?」などと言っている。
そして、最後に2冊ほど選んだ本を会計してもらって「いやー、忙しいところ相手をしてもらって悪かったですね」と、店長さんにお礼を述べて帰っていかれた。
そのやりとりの間、おじいちゃまと店長さん、二人ともがとてもうれしそうないい表情をしていらっしゃるように見えた。

わたし自身は、照れもあってなかなか店長さんに話し掛けられないし、なかなか「これは」と思いながらも、お値段が張る本は買えなくて申し訳ないのだが、それでも”いつもの書店”にこれからも頑張ってほしいと、切に願っている。