期待通りの吉右衛門さんと意外だった梅玉さん(1)

朝から雨模様。降り自体は大したことはないのだが、雨の日はもう一つ、気分がすっきりしない。

歌舞伎座の四月大歌舞伎夜の部を見物。
演し物は、「大石最後の一日」と「二人夕霧」、「人間万事金世中」。

「大石最後の一日」は、真山青果の後に「元禄忠臣蔵」となってまとまるきっかけとなった作品。細川屋敷にお預けとなっていた、大石内蔵助ほかの赤穂浪士にいよいよ切腹の沙汰が下る日を描いている。内蔵助は、吉右衛門さん。今、この役が最も似合う役者さんなのではないだろうか。世間の評判が高まるにつれて、ごう慢な心が浪士の間に生まれることを危惧して、「人はただ初一念を忘れるな」と語る。この一言は、細川家の若君に「一生の宝になるような言葉をいただきたい」という求めに応じた言葉だが、この一言が幕切れに生きている。

仇敵・吉良上野介の様子を探るために、磯貝十郎左衛門歌昇)が許嫁と定めた、元・細川藩士の娘・おみの(芝雀)が、最後に一目会って確かめたいことがあると、小姓姿に身をやつして、大石に願い出る。しかし、磯貝の様子がおかしいことに気付いていた大石は、最初はおみのの願いを退ける。磯貝が死ぬことへのためらいを見せては、という心遣いからだ。この辺りの、大石とおみのを屋敷に引き入れた堀内伝右衛門(我當)とのやり取りから、大石がおみのの真心に触れて二人を引き合わせるあたりは、緊迫感に満ちている。残念なのは、おみの役の芝雀さんのセリフ。甲の声が割れてしまって、心情はわかるのだがセリフが聞き取りにくい。
吉右衛門さんの骨太の大石が、真山青果の脚本の味を見事に表している。