期待通りの吉右衛門さんと意外だった梅玉さん(2)

「二人夕霧」は、「吉田屋」を下敷きに、上方風喜劇としての笑いとノー天気な設定を楽しむ芝居だろう。本来は、仁左衛門さんが伊左衛門を演じるはずだったが、病気休演のため、梅玉さんが代役で演じた。
梅玉さんは、福助時代に、團菊祭などで拝見したことはあったが、主役を演じていらっしゃるのは、多分初めて拝見したのではないだろうか? どちらかというと、「忠臣蔵」の義経、「勧進帳」の判官といった、硬質な白塗りの役の印象が強かったので、この「伊左衛門はどうなんだろう?」と拝見するまでは危惧していたが、いい意味で意外にも、伊左衛門のいかにも”遊びが過ぎて、親から勘当された大店のお坊っちゃん”という役にハマっていらっしゃる。しかも、ちゃんと上方風のジャラジャラとした若旦那だ。もちろん、仁左衛門さんの伊左衛門は大ご馳走で、拝見できなかったのは残念だが、梅玉さんの意外な一面を見せていただいたようで、ちょっと得をした気分だ。
お話自体は、あまりに他愛無くいので、深く考えずに舞台で進行する喜劇を楽しめればいいのではないだろうか。

「人間万事金世中」は、黙阿弥の散切りもので、本邦初の翻案劇だそうだ。横浜が舞台となって、とにかく金儲けにしか興味の無い一家と、そこにやむなく寄宿する親戚の若い男女を巡る、人間喜劇。とにかく強欲なオジさんを富十郎さんがハマリ過ぎともいえるくらいの熱演で、見せる。あまりにぴったりとし過ぎてしまって、黙阿弥のセリフの味わいが薄れてしまったような気がする。その強欲なオジさんに負けるとも劣らない強欲な妻が吉之丞さん、この両親ならさもありなんという娘・おしなが扇雀さん、そのオジさん一家にいいようにこき使われる青年・林之助が信二郎さん、姪のおくらを孝太郎さん、というのが主だった配役。とにかくこの強欲な一家の言動のいちいちがおかしくて、その親戚や使用人もみんな似たような性格という設定は、強欲尽くしだ。そんな中で、長崎の叔父さんや自分のばあやの病気を心配する林之助のところに、莫大な遺産が贈られる。それを機に、林之助は自立して店をかまえるのだが・・・。
富十郎さんのお茶目なところが活かされ過ぎていたかもしれない。とにかくひたすら笑う1時間あまりだった。

「二人夕霧」と「人間万事金世中」のナンセンスな笑いが被ってしまって、一夜の番組としては、ちょっともったいなかったのでは。