落語の「玄冶店」も面白い(3)

一方のお富は、海に飛び込んだものの、通りかかった船に助けられ、玄冶店に立派な家を与えられて暮らしている。この日は、女中は宿下がりで不在だし、旦那は用事があって来ないので、お富は植木鉢を持って一人で縁日から帰って来る。その途中で、与三郎と偶然出会う。気になった与三郎がお富の跡をつけてきて、格子戸越しに家の中の様子を伺っている。そこへやって来たのが、蝙蝠安ともう一人、この辺りを縄張りにするチンピラ。「前々からこの家に、あたりをつけていた」という蝙蝠安は、入り口から中を伺う与三郎に気が付いて声をかける。すると、どうもこの女はお富ではないのか?と思い始めていた与三郎は、「あなたがたが、ゆすりに入るのなら、自分も一緒に連れて行ってくれ。もし自分の存じよりの女ならば、言いたいことがあるので、ぜひ頼む」と、ゆすりの一行に加わる。

芝居だと、藤八という道化方が最初に蝙蝠安の相手をして「こんなはした金じゃあ、帰られない」と言わせるのだけれど、今日のは、最初からお富が蝙蝠安たちの相手をする。そして「草鞋銭でいいと言ったじゃないか、不満なら無理にもらえとは言わないから、さっさと帰ってくれ」と追い出しにかかる。そこで、与三郎のお馴染みのセリフになる、という運びだ。
「えー、おかみさんへ、御新造さんへ、お富さんへ、いやさお富、久しぶりだな」というお馴染みのセリフは、あえて声を張らずに、むしろおずおずとした感じにしているのは、与三郎が根っからのワルではないという、ここまでの噺の流れを尊重していて、一瞬「ええ?」と思ったものの、納得がいく。
それから先のセリフは、役者のセリフかと紛うばかりの、名調子。いったいどういう収拾をつけるのかと思ったら、「お芝居では、こんな感じだけれど、実際の二人は違った」という落げで、笑いを取る。

前半の噺の運びを説明している部分では、淡々とした語り口だし、笑う所もないし「これじゃあ講談でもいいじゃない!」という感じだった。ところが与三郎が実家に帰って来たあたりから、どんどん噺に引き込まれ、芝居そのままのセリフのところからは、一気に聞かされてしまった。ちょうど1時間ほどの高座だったけれど、その長さを感じなかった。
続きは、来年ということらしいが、ぜひまたこの続きは聞いてみたい。

ということで、雲助さんとたい平さんは、わたしの今後も要チェックの噺家さんに加わった。