「隗より始めよ」(2)

日本の生地では、紬や紅型、絣、江戸小紋、踊りの舞台で衣裳として着けたこともあるという手描き友禅のきもの、金襴の袋帯といったカジュアルから格調高いものまで、鶴見さんのこだわりが感じられるものばかりだ。1点のお値段は決して安いとは言えないレベルのものだが、それらを大切に手入れをして、作り替えも経て、最後まで使い切るという姿勢は、素晴らしい。
また、鶴見さんのこだわりは、もちろん帯締めや足袋、履物といった小物にまで及んでいることが、わかる。

そして、第3章「きものを商う人・つくる人」では、これまでに出会ったきものを鶴見さんに届けた呉服屋さんや、生地を作る人たちへのインタビューが収録されている。
売る人も作る人も、職人魂とでもいうものをお持ちの方ばかりで、それが扱う商品や、彼らの作品に現れるのだな、ということを教えていただいた。

最後の第4章では、この本を編集した、藤本和子さんとの対談。
きものというものに親しんで来なかったという藤本さんが、きものを着ることの魅力、きものへのこだわりといったことから、きものを着るための体作りや手入れの仕方といった実用的なお話、さらには精神的なバックボーンといったことまでを鶴見さんに伺って行く。
ちなみに、藤本和子さんといえば、最近出版されて一部で話題になった『リチャード・ブローディガン』の著者であり、ブローディガンの翻訳者としても有名な方であったことを、巻末のプロフィールを読んでやっと、気付いたのだった。

この対談の中で鶴見さんは、きものを着るということに抵抗を感じていた藤本さんに、「きものを着たいなという気持になってきました」という言葉を引き出している。そして、こんなアドバイスを送っていらっしゃる。

<b>きものを着ることによって、自由になれる可能性をあなたも信じるんですね。
自分で新しい伝統をつくればいいんですよ。伝統には受け継ぐという意味と、自分で創るという二つの意味があると思います。わたしも昔からあるものだけをそのまま受け継いできたわけではありませんから。
とっかかりは何でもいいと思います。とにかく「隗より始めよ」。</b>P.186

そう、きものに限らず、興味を持ったら「隗より始めよ」なのだ。