「隗より始めよ」(1)

鶴見和子さんというお名前は、なんとなく存じ上げていた。どちらかというと、アメリカナイズされた方なのかなーと、漠然としたイメージを勝手に抱いていたので、『きもの自在』を書店で見たときに、正直なところ違和感があって、すぐには手にとらなかった。
いろいろ、手近で手に入るきもの関連の本を買って読んでいるうちに、そろそろそうした本も底をついてきて、書店の棚からこの本を抜き出して、中をパラパラと見てみたら、鶴見さんのきものが、どれもこれも、とても素敵で「これは買って読もう!」という気分になったのだった。

読み始めたら、鶴見さんは子供の頃から、日本舞踊を習っていらっしゃったということ、普段はきものでお洒落をする時だけ洋服を着るような、そういう暮らしをしていらしたことを知って、とても意外に感じた。
そして、きものと洋服を着分けていらした時代を経て、今では四季を通じて、ほとんどきもので過ごしていらっしゃるという。その理由が、第1章「きものは魂のよりどころ」で述べられている。
順番に挙げると「きものは日本のエコロジーにふさわしい」「きものは心身をすこやかにする」「きものは長い目で見て安上がり」「きものは魂のよりどころ」「きものの創造性」ということになる。
日本の風土に一番合っているのがきものであり、日本で暮らすならきものでいるのが、心身両面にとってふさわしいという理由を、論理的に挙げている。

第2章は「きものは出会い」と題して、これまでに鶴見さんが出会って来たきものを、具体例を挙げて紹介している。もちろん、カラー写真もたくさんある。ここで紹介されているきものは、どれも鶴見さんが運命的に「出会った」きものだ。
その中には、日本の生地ではないものも少なくない。
たとえば、メキシコで出会ったストールを仕立てた帯。中国・雲南省の道ばたで買った刺繍布を仕立てた帯。インドのサリー用の生地から仕立てたきもの。
これらは、日本の生地で仕立てたきものや帯と、違和感なくコーディネートされている。