末広亭にただよう懐かしい空気(1)

はじめて行った寄席は、上野の鈴本演芸場だった。その勢いで次に行ったのが、新宿の末広亭
鈴本は、とても綺麗なビルの中の演芸場で、ずーっと昔に行ったことがあった国立演芸場のイメージとダブって「最近の寄席は外も中も綺麗なんだな」といつの間にか、寄席に対するイメージが変わっていた。
ところが、その前は何度も通っていたのに、新宿の末広亭の外見はもちろん、内部もバリバリ現役の昭和の建築、というのにびっくりしてしまった。
木戸口で切符を切ってもらうと、もぎりのお嬢さんが、扉を開けてくれるのだが、そこはもう、寄席の中。しかも床はタタキなのだ。そして、上手・下手には畳敷きの桟敷席で、中央が白いカバーのかかった椅子席。一歩中に踏み込むと、なんだか何十年もタイムスリップしてしまったような、不思議な感覚に陥る。
すっかり、場の空気に呑まれてしまったのもつかの間、すぐに居心地のいい空間にかわってしまうのは、初代お席亭の北村銀太郎さんがおっしゃるところの「いい木を使っていい寄席を作った」からなのだろう。

今まで、何度か末広亭に足を運んだが、この春の小さん師匠追善興行の時は、なんと満員で2階の客席に座るという体験もした。
一体何人の人が踏みしめた階段なのか、よく磨きこまれた、ちょっとミシミシ言う木の階段を上がっていくと、昔の芝居小屋もこんな感じだったのかな?という空間がある。
また、先日の余一会の時は、運良く?1階の桟敷席にも座ることができた。
長い年月を経たせいか、ちょっと床が傾いているのも愛嬌で、椅子席より1段高いところから眺める高座はまた、違って見える気がしたのだが・・・。
この、あたたかい特別の空間を生んだ、北村銀太郎さんの聞き書き冨田均『寄席末広亭』(平凡社ライブラリー)を読み終えた。