笑志のかなりE@内幸町ホール

こんなところにホールができたんだ、という場所に綺麗なホールができていた。内幸町ホールに行ったのは、今日が初めて。笑志さんの独演会も、今回が初めて。
まず、最初にスライドを使って、近況報告、挨拶、ネタふりがあるのだけれど、これがかなり凝っている。そして、羽織無しの黒紋付で、前座さんの出囃子に乗って、笑志さんが登場。「えー、前座でございます」というのが開口一番の言葉。たしかにプログラムにも「開口一番」と書いてあるのを、あわてて確認。最初のスライドの補足説明や、ゲストの志の輔さんとの想い出など、かなり長いマクラから「元犬」に。このネタは、以前、落語研究会で笑志さんのを聞いて、爆笑したのを覚えている。今日も、犬のシロが願いが叶って人間になれたのに、ついつい犬の時のクセが出てしまうところを、面白おかしく。バカバカしいと言ってしまえばそれまでなのだけれど、なんかこういうネタって好きだし、これを面白く演じるのには、実力がないと難しいよなぁと思う。
一席終えて、一旦袖に引っ込むと、再び、スライドがスタート。今度は、6月に紀伊國屋サザンシアターで行う真打ちトライアルの宣伝なのでけれど、これがまた、非常によくできている。去年秋のトライアルで、談志師匠から判決が下る瞬間の映像も使って、かなり悲壮感漂うものになっていながら、つい笑えてしまう部分もあって、こういうセンスは好きだなぁと思った。
二席目の「禁酒番屋」と最後の「百年目」はネタ出しされていた。この「禁酒番屋」は、わたしには残念ながら・・・。
で、本日のゲスト、志の輔さんが登場。人の会にゲストで呼ばれるというのが、いかに難しいか、という話題や、笑志さんの演出についてのアドバイス?などもある。で、何をやるべきか「今、頭の中でグルグルまわっているのですが」と言って始めたネタが、なんと「名人長二」。ここでこんなネタが聞けるとは思ってもみなかったので、びっくりした。生で聞くのは初めてのネタ。やたら難しい注文を聞かされて「催促なしを約束してくれるなら」と引き受けて、三ヶ月後に自分で出来上がった仏壇を背負って来る長二。その仏壇の出来に一旦は、舞い上がらんばかりに喜んだ旦那も、長二に「百両」と言われて「高い」といって値切ろうとする旦那。「百両が不満なら、持って帰って板に分解して持って来るから」と言い「これは、鉄の釘は1本も使っていないんだ。あんたの注文を満たすものになっている。だから、内側から叩けば壊れるだろうが、外側からはいくら叩いても壊れない。壊れたらただで置いてくよ」と言い切る長二。それを聞いて、一番大きな木槌?を持って来させて執拗に叩く旦那。この辺の意地の張り合いを、飽きさせる事なくグイグイと引き込んで行くところは、さすが志の輔さん。「これから先を全部やると13時間くらいかかる『名人長二』ですが、今夜はエピソード1で終わりにします、と言って高座を降りたのだった。
仲入りの時に時計を確認すると、すでに8時半近い。一瞬、1時間時計を見間違えたかと思ったけれど、やっぱり8時半だった。
仲入りが終わって、ふたたび登場した笑志さんは、「名人長二」が始まった時は、「百年目」はやめて、15分くらいで上げられるネタに変えようかと思って、頭の中でネタ帳を繰っていましたと言っていた。で、志の輔さんがエピソード1で止めてくれたので、と言って予定通りの「百年目」。これが、非常に良かった。このネタも生で聞くのは多分初めて。幕開けは、小言幸兵衛みたいな番頭さんが丁稚や手代に小言の嵐を浴びせているところ。「芸者っていうのは、何月に着る紗だい? 幇間持ちっていうのは、煮て食う餅かい、焼いて食う餅かい?」と堅物ぶりを印象づける。ところがその番頭さん、実は、たいそうな遊び人で、芸者や幇間を連れて、船で向島に花見に繰り出す。それでも遊んでいる所を知人に見られたくないと、船の障子を閉めさせるのだけれど、向島に着くと、酔いも手伝って、つい土手に上がってしまう。ただ、素顔をさらすのはどうしてもイヤだということで、幇間が開いた扇子を手拭いで顔に付けて「これなら、誰にもバレませんよ」と言われて、その気になるのだが・・・。
この、番頭さんのキャラがいいし、途中で偶然であってしまうお店の旦那がまた、いい人。その場は「人違いでございましょう」と見てみぬふりをしてくれる。だけれど、お店に戻ってから「番頭さんの遊びの元手が気になって」一晩かけて、普段はろくろく見た事もない店の帳簿を確認してしまうのだけれど、店のお金をどうこうしたわけがないとわかって、翌朝、番頭さんを自分の居間に呼び出す。呼ばれた番頭の方も、前夜は「ああ、これでクビになってしまうに違いない。そうなる前に逃げてしまおうか。でも逃げ出してしまったと笑い者になるのも悔しい」と一晩中悩んだまま、朝を迎えている。この一晩の番頭さんの揺れる心の描き方が、すごく上手いなぁと思った。そこへ旦那からの呼び出されて座敷に行くと、旦那からは「旦那という言葉の由来を知っているかい?」と聞かれ、その由来を教えられながら、「店の若いものを育ててくれないと」とやんわりと諭される。でも、旦那としてはただ番頭に説教をするのではなく、1年後には暖簾わけをするから、それまでに後釜を育てるように、という嬉しい知らせだった。この時の旦那の暖かい気持、それを聞いて素直に改心する番頭さん、どちらもいい人だ・・・。その辺のやり取りの中に、双方のいい人ぶり、人としての在り方がにじみ出ていて「百年目」というネタの気持の良さが、とてもよく出ていた。
終わったところで、洋服に着替えていた志の輔さんを舞台に呼び込み、しばしトーク。ハッパをかけてくれた兄弟子えの感謝と、これから再度真打ちに挑む弟弟子へのエールが感じられて、とても素敵なトークだった。志の輔さんが二つ目で紀伊國屋で会をした時に、談志師匠をゲストに頼んだら「みっちりと言って『芝浜』を本当にみっちりとやった」というのを前座で見ていた笑志さん、その話を聞いて、そのことを思い出したという志の輔さんが「仲入りで、帰る家元を見送りに行って、閉まりかけたエレベーターのドアの隙間から「ごめんな」と手を合わせた家元を見たら・・・という話を聞いて、なんだか談志師匠らしいなぁと思ってしまった。そういうところが、談志師匠のチャーミングさなんだよなぁ。
エンディングにもスライドが用意されていて、これがまた、気の効いたもので、最後の最後まで楽しませてもらった。これから、笑志さんの会も要チェックだ。6月の真打ちトライアルも、必ず応援に行きますよ!