『明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎』

読みにくいところも、若干ありつつ、内容的には非常に面白かった。五代目菊五郎については、「團菊」と並び称されている割には、世話モノの名手とか、兼ねる役者とか、そういう優等生的な面以外は、これまで紹介されていなかったように思うのだけれど、この本で彼がいかに「キワモノ」に挑戦して、その徹底的な写実精神で見物をアっと言わせたかということをまとめて明かしてくれている。黙阿弥についての河竹先生の一連の本を読んだりして、そっちはそっちでなんとなくの知識はあったものの、五代目菊五郎という役者の足跡から見て見るとその歌舞伎の歴史における意義というのが見えてくる。
明治の歌舞伎は、時代について行こう、最新の風俗を取り上げて話題を作ろう、そんな精神の積極性、貪欲さは、たいしたもんだ。それも團十郎のような高尚趣味に走るのではなくて、庶民の目線で、というところが菊五郎の特徴。
今現在、上演に耐える芝居かどうかはおいといて、かつてこんな流行最先端をおっかけた芝居が歌舞伎にあった、ということは忘れてはいけないと思った。でも、ちょっと工夫すれば、もしかして面白いかも?と思えるものもあるから、国立劇場が検討してみてくれないかな?とも。

明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎

明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎