『坂東玉三郎 歌舞伎座立女形への道』

中川さんは、膨大な活字資料を読み込んで、そこから論を展開して行くというスタイルの書き手。それだけに、自由に論を展開できるというメリットもあるけれど、当事者の証言を聞いたわけではないので、ある部分は推論になってしまう。それだからこそ、面白く話が展開できる部分もあるのだろうけれど、ちょっと物足りなく感じる部分もある。
『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』の時もそうだったけれど、ある意味、歌舞伎の中にいたら、触れることはできなかっただろう“タブー”にも触れているわけで、その部分についての面白さもあるけれど、じゃあどこまで本当なの?という疑問も残る。「読み物」としては、ミステリー的な要素があって、面白く読めた。
歌舞伎という芸能に対してのスタンスが、わたしの場合はちょっと違うので、中川さんが書いたことを全面的には支持しないけれど、こういう見方や感じ方もあるだろう、というのは納得できる。でも、それだけではないよなぁ、ということも感じる。
自分と歌舞伎との付き合いを振り返る、という意味では、いい刺激を受けた1冊といえる。