林芙美子の「放浪記カイザン事件」

田村さんの手紙 : daily-sumus
林哲夫さんのBlogのエントリーを読んでいて、「へぇ〜、そうなんだ!」と思ったのが、林芙美子「放浪記」の単行本と文庫版で、多くの異動があるという件だ。

《で、「放浪記」の引用ですが、文庫はいけませんや、で、改造社版のコピーと、文庫のコピーを同封します。なぜ、文庫化の時に、こんなとんでもないバカを林フミ子はしたんだろう、もう、ものの、よしあしがわからなくなっていたとしか思えない/しかも頭っから全部ですぜ、ひでえもんだ、「放浪記カイザン事件」として、だれかきちんと書いてるのかどうか、知りませんが、こないだも森まゆみさんと話してる時にこの話になって、彼女は林フミ子がエラくなって自分で直したんだろう説なんですが、それにしても、悪く直したもんだと思ってます。折角の詩質が、まったく平板なものになってて、しかも今、大体の人が、「放浪記」ってこれだと思われちゃってるのが、情ねえです。ハイ。》

という田村治芳さんからの手紙を引用だ。
林さんはそのあとに、文庫版と改造社版の比較を、それぞれのコピーを掲載し参照つつ、行っている。
田村さんが林さんに宛てた手紙の中で指摘している通り、現在、一般人が読む「放浪記」は新潮文庫だ。森まゆみさんの説が正しいとするなら、著者自身による改訂だから、文庫版が間違いだとは言えないけれど、作品のクォリティが変わってしまったことを否定できない。
松岡正剛さんは、「千夜千冊」第二百五十六夜(2001年3月26日)で「放浪記」を取り上げているが、改造社版(二つの版があるところまでは触れている)、戦後の留女出版版、そして新潮文庫版があり、新潮文庫版が

標題も『新版放浪記』となっている。いわば定番にあたる

としている。
他方、みすず書房の<大人の本棚>シリーズは、改造社版の復刻である。森まゆみさんが解説を執筆している。
青空文庫は、改造社版を定本にした「放浪記」がアップされている。
みすず書房の<大人の本棚>は2004年刊で、林さんの『喫茶店の時代』が2002年の刊行なので、田村さんが林さんに手紙を書いた時点では、改造社版からの「放浪記カイザン事件」について、公式に発言した人はいなかったのかもしれない。その辺りのことは、多分、大人の本棚版の森さんの解説を読めば、わかるのではないか?
正直、大人の本棚から『放浪記』が出たときは「なぜ、今、放浪記が?」とうっすら疑問は感じたものの、調べたり、実物を手にとったり、という行動には移さなかったので、林さんのこおエントリーを読まなければ、こんなことがあったことは、全く気づかなかっただろう。
田村さん、林さんに感謝。まずは、青空文庫で「放浪記」の初出版を読んでみよう。

放浪記 (新潮文庫)

放浪記 (新潮文庫)

放浪記 (ハルキ文庫)

放浪記 (ハルキ文庫)

林芙美子 放浪記 (大人の本棚)

林芙美子 放浪記 (大人の本棚)

ちなみに、初版が底本のハルキ文庫も発見。