『怪しい来客簿』(1)

色川武大さんの『怪しい来客簿』(文春文庫)読了。
昭和52年に、泉鏡花賞を受賞した蓮作短編集。

得体の知れない「掛け声屋」の女性、「あれじゃあ、乞食とかわらないよ」と「私」の母が評した神楽坂の南京豆売りの婆さん、深川高橋のドヤ街で出会った少女、浅草を徘徊していた売れない役者、といった無名の人々から、「文ちゃん」という愛称で人気を博した力士・出羽ケ嶽、「日本の流行歌手の鼻祖」二村定一大映スターズの外野手・木暮力三、プロボクサーのピストン堀口、といった著名人、さらには度々「私」を訪れるようになった、亡くなった叔父さんまで、様々な人物が描かれる。共通点は、どこかみんな「怪しい」空気を漂わせているということ。
色川さんが描き出す世界は、「怪し」くもあり「妖し」くもある。フィクションでありながら、ノンフィクションだ。

どの作品でも、社会からは”ドロップアウト”とみなされた人々への眼差しが優しい。そういう風にしか生きられなかった彼らの哀しみが、「私」にとっては身近なものだったからなのだろう。