中井英夫さんの日記が面白そう

先日届いていた「彷書月刊」10月号がそのままだったことを思い出して、朝食の合間に目次を見ると、坪内さんのお名前が!
こりゃ大変だと、さっそく読みはじめる。そうこうしている間に、パンが焼けたのでジャムを冷蔵庫から出して、食べながら続きを読む。

中井英夫さんは、もちろんお名前は知っている作家だが、作品は読んだことがない。特集「中井英夫に会いにいく」の執筆者に、坪内さんのお名前があるとも思わなかったので、ちょっと意外に感じる。「黒鳥館戦後日記に見る中井英夫と椿實」というタイトルだ。それを見て、キーワードはまず「日記」だなと思う。読んでみると、やはり日記読みの坪内さんらしく、東京創元社から文庫で出版された中井英夫さんの日記の話題から入っている。
では、椿實さんとは?

坪内さんによれば、椿實さんという方は、半年ほど前に亡くなった幻想文学の”伝説の作家”だという。新聞に死亡記事が載ったということだが、それすら気付かなかった。坪内さんは、その扱いがあまりに小さく、そっけなかったことに、不満だったそうだ。20年前に立風書房から一巻本の作品集が出ていたそうで、坪内さんが確認されているだけでも、10版を重ねているそうだ。
その椿實さんについての記述が、中井英夫さんの日記に出てくるのを、坪内さんは拾っていく。中井さんが椿さんの「メーゾン・ベルビウ地帯」という作品を読んだ感想を次にように書いておられる件が引用されている。
<b>道学者が何と云はうとこれは傑作だ。これを二日で書き上げる二十三歳の彼に幸ひあれ。自分の才能がひどくみじめだ。完全に負けた。</b>

このあと、中井さんは何度も椿さんの「メーゾン・ベルビウ地帯」を読んでしまった衝撃と、そのためにご自分が小説を書けなくなったことを、何度も日記に記している。
坪内さんは、中井さんはその「眼の高さ」ゆえに、自らが小説をかけなくなったことを認めると同時に、
<b>こののち、『日本短歌』や『短歌研究』をはじめとする短歌雑誌の編集長として塚本邦雄寺山修司、春日井健などの優れた新人を発掘することになる。</b>
と、その功績を評価している。
また、中井さんの日記の読みどころの一つが、こうした焦燥感への正真な記述があると、坪内さんは書いている。
この日記は、ぜひ読んでみたいものだ。