松助はここで、若き日の六代目に、いきをつめて私のセリフを受け、ホッと吐き出しながら、「俺もずいぶん太いほうだが、大家さんにはかなわねえ」というように教えた。
いわば、世話狂言の写実のやりとりのあいだにも、用意されている緊密な呼吸を、先輩が伝授したわけである。

        戸板康二『すばらしセリフ』(ちくま文庫)「鰹は半分もらってゆくよ」P.193