『尾上九朗右衛門』

木村伊兵衛が六代目の写真を数多く撮っているが、そのきっかけは、趣味で写真をやっていた九朗右衛門さんが知人の紹介で、木村に弟子入りしたことだったという。木村に頼まれて、六代目に紹介したのが、九朗右衛門さん。
六代目ほどの人でも、やはり戦前は、どこか差別的に見られていた(と、少なくともご当人は思っていたらしい)というのは、意外。
六代目に文化勲章を贈ろうと、当時の首相である吉田茂が考えていたのだが、六代目がその直前に亡くなってしまったので、追贈することにした。代理で授章したのが、九朗右衛門さん。その後、文化勲章の追贈はしないという決まりができたとのこと。
生い立ちのところで、九朗右衛門さんは、ずっと家寿子夫人の子供として、また、梅幸さんとも実の兄弟として育てられていたことを知る。というか、六代目のこの辺のことはあまりよく知らなかった。千代さんは、脇から正妻に直った方だったということも、実は、この本を読んで知った。千代さんのことは、勘三郎さんや勘九郎さんの聞き書きなどにもしばしば登場していたのだけれど、家寿子さんのことにまったく気付かなかったのは、お二人とも花柳界の出だったこともあるのだろうか・・・。当時、役者さん(とは限らないのだろうけれど)にお妾さんが居る事など、それほど珍しいことでもなかったのだろうけれど、それを子供たちに隠して育てたというところに、なんとなく六代目という人の考え方が見えるような気がする。

僕とライカ 木村伊兵衛傑作選+エッセイ

僕とライカ 木村伊兵衛傑作選+エッセイ

六代目 尾上菊五郎―全盛期の名人芸

六代目 尾上菊五郎―全盛期の名人芸

最後に挙げた『六代目 尾上菊五郎?全盛期の名人芸』が、九朗右衛門さんの本にも出てくる、六代目の写真集。これは、見つけたら買おうと思いつつ、未だに出会えていない1冊。『僕とライカ 木村伊兵衛傑作選+エッセイ』は、一昨年だったか、東京ランダムウォークで偶然見つけて、六代目の写真やそれにまつわるエッセイが収録されていたので、購入した。『木村伊兵衛 昭和を写す〈3〉人物と舞台』は、去年、朝日ホールのところのギャラリーで写真展があった時に、その会場でだったか、銀座の教文館だったかで、購入した(はず)。