「春調娘七種」

主要メンバーが一気に若返った新春浅草歌舞伎の最初の演目は、「春調娘七種」。春の七草に曽我モノをからめた、お正月興行の幕開きにふさわしい舞踊です。
座頭の松也さんが五郎、隼人くんが十郎、児太郎くんの静御前という配役。地方さんも世代交代が進んでいるんだなぁと、傳九郎さんが立鼓なのを拝見して、感じました。
そういえば、歌舞伎囃子のお稽古で、お正月前後にこの曲の鼓をお稽古していただいたことがありました。お稽古の合間に「テレビのニュースで、装束をつけた人が、唐土の鳥が 日本の土地へ と歌いながら七草を叩いているところ、見たことあるでしょ?」と師匠に聞かれことを思い出しました。その時は、この儀式について調べてみることもせずに、スルーしてしまったのですが、浅草で舞踊を見て、調べてみることにしました。
春の七草とは、せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろ という植物です。そういえば、秋の七草の方は、食べないですね。その違いにも何か理由がありそうですが、それについてはいずれまた。
七草を俎板の上に置いて、唐土の鳥が〜という七草囃子を歌いながら叩きます。それをお粥にして食べることで、無病息災と豊作を祈る、という行事。ちなみに、七草囃子の詞章は地方によってバリエーションがあるようです。
長唄では

唐土の鳥が日本の土地へ、渡らぬ先に
    浅川玉兎『長唄名曲要説』(邦楽社)

長唄名曲要説

長唄名曲要説

という部分が取り入れられていて、このあと、七草合方という三味線と囃子だけの演奏になります。この合方で三味線と大小鼓が、俎板を叩く音を模した手を演奏して、ウキウキと楽しい気分になります。
今回の浅草でも、静御前の役に、七種を打つ振りがついていました。
それでは、と七草囃子について、ググってみたところ、貴船神社のフェイスブックページに行き当たりました。
節供というのは、元日を含めるのだと勝手に思っていたので(他の日は全部数字が重なる日なので)、1月だけは7日だということを知った、というそもそものところから、確認できました。
貴船神社さんの記事によると、正月七日に神前に若菜を供えて、そのお下がりをいただいて豊作を祈るという風習に、中国から入ってきた人日の風習が合わさってはじまったのが七草粥ということだそうです。
また、デジタル大辞林の「七種粥」には

①正月七日に春の七草を入れて炊いた粥。のちには、薺またはあぶら菜だけを用いるようにもなった。菜粥。薺粥。
②正月十五日に米・小豆・粟など七種の穀物を入れて炊いたお粥。後世には小豆だけを入れた「小豆粥」になった。

そして、「七種を囃す」という項を見ると

七草の節句の前夜、または当日の朝、春の七草を俎板に載せ、「唐土の鳥と日本の鳥と渡らぬ先に、七種薺」などと唱えながら打ち囃すことをいう。当日の朝、この菜を入れて粥を炊き七種粥として食べる。

前日の夜に七草を打ってもいい、というのは意外です。
また、上記の貴船神社さんの記事では、この節供の手水の儀だけは特別に、七草をつけておいた御神水に手を浸して清め、爪を切る(他の節供では、御神水だけを使う)とありましたが、大辞林の「七草爪」という項目では、「七種の節供に、七種の菜をゆでた湯に爪をひたしてから切った風習。邪気を払うと信じられていた。」とあって、これは民間に伝わる時に変化したものでしょうか?

「春調娘七種」は、明和四(1767)年正月江戸中村座「初商大見世曽我」の、対面の前の舞踊劇として初演。作者は、正月の演物の定番・曽我モノの趣向に初春の行事・七草囃子を取り入れるという工夫をしたのでしょう。
古い振付は残っていないようで、明治以降は毎回振り付けされていたらしい、とのことです(『長唄名曲要説』p.32)。そのためか、今度の浅草のような三人立から、総勢十五名(大正15年正月・帝国劇場)の大掛かりなものまで、その時の座組によって工夫されてきたようです。
女らしい節付の部分も多く、曽我モノとしてはちょっと変わった感じの曲だな、と思います。

これまでは、七種粥をいただくことそのものを忘れてしまったり、覚えていても簡便にフリーズドライの七種をお粥にふりかけてよしとしたり、ということばかりだったのですが、若菜を浸した水で手を清めたり、爪を切るという行為にも意味があるということを知り、来年はぜひ、春の七草を入れてお粥を炊いてみようと思いました(今からこんなことを言っていると、鬼に笑われますね… ^^;)。

ところが、書棚にささっていた

旧暦で日本を楽しむ (講談社+α文庫)

旧暦で日本を楽しむ (講談社+α文庫)

を引っ張りだして、ページをぱらぱらとめくって、最初の「陰暦でめぐる忠臣蔵」という回を読んでみたら、著者の千葉さんが旧暦の討入の前日に泉岳寺にお参りし、当日に吉良邸に行ってみた、というので「そうか!旧暦の正月七日にもう1回、七草粥をちゃんと作ればいいのか!!」と思い至りました。
ちなみに、今年の旧暦正月七日は、2月25日です。
が、その頃に七草をぜんぶ揃えるのは難しいだろうな…。ま、大辞林先生の「薺またはあぶら菜だけを用いるようにもなった。」というお言葉に従って、手に入るもので作って、よしとしましょうか。

まず今日は、これぎり!