目白夜会「芥菜」

今回のタイトルは、芥菜(からしな)。春の季語だそうだ。

  • なな子「動物園」
  • 小満ん「大工調べ」
  • 小袁治「三年目」
  • 小満ん「盃の殿様」

レギュラー前座のなな子さんが、五月下席から二つ目昇進なので、今日が最後のお勤めという挨拶があった。二つ目になると自分の出囃子を持てるのだが、彼女はたぶん名前にちなんだのだろう「七夕の歌」で高座に上がった。
小満ん師匠一席目は、なんと!「大工調べ」だった。小満ん師匠のこの噺の与太郎は、与太郎っぽさが薄め。後で棟梁が「仕事の腕はいい」と家主に向かって言うのだから、いわゆる"与太郎"ではうまくない。いろんな噺家さんの「大工調べ」を聞いていて、皆さんそれぞれに工夫されているけれど、"与太郎"という名前にウェイトを置くか、"腕の良い大工"にウェイトを置くかで、ずいぶん噺の印象が変わってくる、ということに改めて気付かされた。
小満ん師匠の与太郎は、棟梁との会話を聞いていると、普通の職人より、ちょっとまだるっこしいかな?という程度だ。江戸前の大工にしては、ずぼらでぼんやりしたところがあるから、店賃を溜めて、大事な道具箱を、家主に差し押さえられてしまうというピンチを甘んじて受け入れてしまった、というキャラクターと受け取った。
家主のところに乗り込んでからの棟梁の啖呵が、「これぞ江戸っ子の棟梁!」という勢いで、こういうのが、溜飲が下がるということなんだな、と、いい気分になる。その後、「お前も何か言ってやれ!」と棟梁にけしかけられてしゃべりだす与太郎は、かなり普通にしゃべっていても、棟梁との勢いの差がくっきりする。
お白洲で、家主が道具箱を差し押さえていた間の、与太郎の手間賃はいかほどになる?とお奉行が尋ね、その分の支払いを家主に命じ、最後にお奉行が「ずいぶん儲かったんじゃないか?」という意味の問いかけをするところ、思わずニヤっとさせられる。棟梁もお奉行もいたずらっ子みたいな笑いを受かべている顔が思い浮かぶ。
今日のネタ出しは「盃の殿様」。さるお大名が気鬱の病にかかって、御殿医に知恵をつけられ「吉原に行きたい!」とダダをこねる。止めようとするご意見番の家老に「ダメなら、薬をのまないぞ!」と脅しをかけるので、仕方なく家老は、吉原に素見に行くことを承知。家の格に叶う供揃えで吉原に行くが、殿様は「茶屋に上がりたい」とまた駄々をこねる。そして売れっ子の太夫を見初め…。
この導入部がまず、バカバカしく楽しい。行列揃えて吉原大門口まで出かけて行く様、お供を大勢引き連れての茶屋遊び。その描写を聞いていると、ウキウキしてくる。
吉原に通いつめた殿様も、ついに参勤交代で国元へ帰るが、太夫のことが忘れられない。そこで、一番足の早い足軽を走らせて、吉原の太夫の下へ盃を遣わす。ここからは、ますますバカバカしく楽しい展開になり、大笑いのうちに、落げ。このバカバカしい楽しさを、お客の心に保ち続けさせる、というのは実は大変なことだ。演者がちょっとした隙を作ると、お客の心は「そんなバカな」という方に向かってしまうからだ。バカバカしい楽しさの余韻に浸りつつ、帰途につく。いい落語を聞いた時にのみ得られる幸福感を噛み締めつつ…
まず本日はこれぎり!