またまた、積ん読本の素

台風一過とは今日のことを言うのだろうな、というくらい見事な秋晴れの一日だった。日中は半袖のTシャツ1枚でも暑いほどだった。

久世光彦さんの『一九三四年冬ー乱歩』(新潮文庫)読了。
久世さんといえば、向田邦子さんとのコンビで、数々の名作ドラマを世に送り出したディレクター。久世さんと乱歩というのは、わたしの中ではあまり結びつかなかった。もっとも、わたしにとって、江戸川乱歩という作家も、子供の頃に読んだ”少年探偵団”シリーズが唯一の乱歩体験なのだが。
この作品では、40歳を迎えて人気・実力ともに娯楽小説界の巨星であった乱歩の、内面に広がる苦悩を、姿を隠し麻布?笥町の小さなホテルに隠れた4日間、という限定した中で描き出している。
乱歩の実像について、知識を持っていないので、ここで久世さんが描いた乱歩のどこまでが実像でどこからが創作なのか、わからない。しかし、昭和初期、麻布の長期滞在の外国人用ホテルという舞台設定と、久世さんがこの作品の中で乱歩に書かせた「梔子姫」という小説、中国人の美青年、アメリカ人の若くて美しい人妻などの登場人物、マンドリンの音色、西洋料理の匂いetc.が相俟って、たちまちにして久世さんが描く世界に引き込まれていく。

また、ポー、クィーンといった探偵小説の大御所はもちろん、乱歩の友人知人として登場する水谷準夢野久作渡辺温といった作家、さらには谷崎潤一郎の探偵小説的な作品など、読んでみたくなる。

これまで、エンターテイメント小説は、ハードボイルドや冒険小説、時代小説などは読んでも、ここに登場したような作家の作品は、敢えて近付かないようにしてきたのだが、この作品を読んで、その封印を解かざるをえなくなった。もちろん、他の久世さんの小説も。